39 VS折紙アレン①
Another story:綾織ナズナ
■SIDE:綾織ナズナ
開会式は想像していた5倍くらい盛大だった。本戦に進んだ16人の学生が第二校舎の真ん中に円になるように立って、幼女学長先生が開会の言葉を。
「みんな! 頑張ってね!」
雑だ……!
でもそれで笑いが起きてちょっと緊張が解かれる。
それからヤのつく自由業みたいな顔した副学長が淡々と試験のシステムを説明する。校舎からは沢山の上級生や観客が見守っていた。
シオンが移動中にコソッと教えてくれたのだけど、催しを盛大にすることで、戦える人員を一箇所に集めることが真の狙いなんじゃないかという推論。
あたしもそれは正しいと思う。最近色んなことが起こって、混乱しているのはきっと学生だけじゃない。
そして、学生は学生の本分を果たすため、試合に集中出来るようにしてくれているのだということも、なんとなくわかった。
大人が頑張ってくれているんだ。あたしが自分に自信が無いとかいう理由で、手を抜いたりするのは全然違う。ちゃんとしなきゃ。
もうすぐ、第一試合が始まる。
あたしはアレンくんと共に、舞台へと向かった。
***
■SIDE:浅倉シオン
「なぁ、綾織のやつめちゃくちゃ緊張してね?」
姫野にそう言われてアレンと相対するナズナの足を見ると、この距離からでも震えているのが分かった。
「っぱ、相手が悪いよなぁ。折紙は不刃流だろ? んで綾織はコピーじゃん。不刃流のコピーとか出来んの?」
「分からない。でも、相当身体に負担かかるんじゃないかな。それに、あの子は強そうに見えてそんなに強くないから」
「その評価は手厳しくね?」
「能力の話じゃないよ。心の問題」
「心……か。そればっかりは鍛えようがないもんな」
「それでも、この試合で何か変わる気がする」
「この試合で?」
自信過剰にも見える折紙アレン。自信が無い綾織ナズナ。メンタルではきっと負けている。
それでも私は覚えている。いつか一緒にお昼ご飯を食べた日に、アレンが言っていたことを。
『ああ、魔剣技も使えない、気合いだけしかない奴に引き分けたあの試合──それを経て思った。このままだといずれ姫野や綾織に負ける』
私はその時、失礼にも程があるが、ナズナじゃなくて東雲さんなんじゃないの? そう思った。
でも、折紙アレンというやつの審美眼は正しい。
綾織ナズナという少女が、自分に自信がないというひとつの欠点を乗り越えたとき、その力は折紙アレンを超える。
そうなれば、アレンは必ず負ける。
試合開始のサイレンは鳴った。
***
■SIDE:綾織ナズナ
「不刃流八式。限界無しの業火一閃」
サイレンと共に繰り出されたのは当たれば一撃必殺の八式。
いきなり決めに来たッ──!
「幻影への変身!!!」
その詠唱の瞬間、身体がぐっと重くなった。
なにこれ……! 息ができない──。
もしかして、不刃流って──。
しかし、そんな推論を立てている暇は無い。
それらの思考が1秒にも満たない時間に行われているとすれば、それよりコンマ5秒だけ遅く、敵は私の目の前に到達した。
あたしは不刃流で強化された腕で備前伝Replicaを振りあげ切っ先を眼前に向ける。
すんでのところで腰を反らせてそれを避ける折紙アレン。
初撃は回避出来た。でも、不刃流で魔剣を持つのはこんなにも魔力の循環効率が悪いのか……!!
本来魔剣に流れるはずの魔力が身体に流れているせいで、魔剣技が揺らぐ。
この不刃流は不完全だ。
だが、その揺らぎの中にも確かな強化は感じられる。身体は熱を発して重いが、いつも重いと感じていた薙刀は驚くほどに軽い。
不刃流の使い方としては間違っているかもしれないけど、力を両方に分散できるのなら、いつもよりパフォーマンス高く戦闘ができる……!
地面を殴って腕を刺し、八式の威力減衰をした折紙アレンは次の攻撃の構えをした。
「不刃流十二式。限界無しの継戦能力」
聞いたことない──。でも字面から判断して、素殴りでの戦闘だ。
そしてそれは当たっていた──。
「がっ──」
瞬間──拳の最も威力が伝わる部分を正確にあたしの鼻の真ん中に打ち込んだ折紙アレン。
あたしはそのまま勢いに押されて頭から地面に落ちて、馬鹿なマネキンみたいに身体を跳ねさせながら5m程度吹き飛んだ。
「あっ、がっ──」
鼻血がでて、喉に流れて息が出来ない。あたしは切れた口の血と一緒に吐き出した。
立たないと、次が来る──。そうしたら──。
「ごはッ──」
折紙アレンの蹴りが肋骨を数本破壊した。その音が聞こえてから、あたしが蹴り飛ばされたことに気がつく。
手からは薙刀が離れ、遠い──。
校舎からは悲鳴が聞こえる。もうやめてあげてと誰かが叫んだ。
ぼろ雑巾のようになったあたし。まだ戦闘して数分もしてない。
情けないなぁ。
もういっそこのまま場外まで蹴り飛ばして貰おう。そうしたら、あたしは可哀想なままのあたしでいられる。
あたしは脇役でしかないんだ。
主役はきっとシオンやアレン君だから。あたしの物語なんて、どうでもいい。
鼻血と一緒に、透明の水が目から流れ出た。
折紙アレンは少しずつあたしに近づいてくる。もう一撃蹴られたら場外だ。
早く、終わらせて──。
「本当に、お前はそれでいいのか」
折紙アレンは静かにそう言った。
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