表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/372

38 トーナメント表

Another story:綾織ナズナ

■SIDE:綾織ナズナ


 あたし、ずっと隣で見守ってきた。


「第一回戦はリヴァイアサン寮の燐燈りんどうカザネか」

「うん。イペタム使いだって」

「イペタムって何???」


 ユウリ君がそう聞くと、魔剣師に詳しいシオンがすぐに答える。


「アイヌの伝説に伝えられてる妖刀だよ。一度抜いたら血を吸うまで収まらないんだって」

「なんだそれ、ダーインスレイヴみたいだな」

「言い伝えだけどね。でも、本人が持ってるのはホントの蝦夷拵えぞごしらえなんだって」

「まじか。金持ちじゃねーか。リヴァイアサンのエリートはいけすかねーな」


 ユウリ君がそんなふうに言っても、彼女はとても真面目だから、それと優しいから、それに同意はしない。


「お金持ちとか関係ないよ。今はやれることをやるだけ」

「マジレスすんなよ〜ちょっと言っただけだろ?」


 ゲシっとユウリ君のスネを蹴るシオン。そんな愉快さを持つ彼女のことが、あたしは好きだ。


「ナズナの初戦は誰?」

「そーか、綾織も残ってたんだよな」


 そう、あたしもちゃっかり本戦に残った。我ながらちゃっかりしてると思う。

 だって、これはあたしの実力じゃない。シオンには自分を大切になんて言っておきながら、あたしはあたしに自信が無い。


 自棄的な程に、あたしはあたしに、絶望している。


「まだ見ていなかったのか?」


 隣に、音も立てずにその人は来た。


 あたしの憧れの人が、憧れる人。


 折紙アレン。


「んーん。あたしはもう見たよアレンくん」

「そうか、なら話も早い」


 シオンが確認してないことに少しだけ寂しさを覚えた。でも、それがお門違いだということもあたしは理解している。シオンには、今はただ東雲さんのこと、そして自分のことを考えて欲しい。


 あたしは、二の次になることには、慣れてるから。


「え、もしかしておめーら戦うの?」

「そー! あたしとアレンくんぶちのめしちゃうかんねー!」

「ナズナは元気だなぁ」

「保護者かお前は」


 自分の笑い声が、こんなにも空虚に聞こえるのはなんでだろう。


 人の聞く自分の声と、自分の聞く自分の声は違うってよく聞くけど、ほんとかな。


 だったら、この空虚さが、誰にもバレていないといいな。


 私はそう思って、舌の端を噛んだ。


         ***


 第二校舎オクタンはその名の通り八角形になっており、直径は500mと巨大だ。

 それも理由があり、第二校舎オクタンは戦闘用のフィールドを囲うように作られているのだ。


 試合はその中心の八角形のフィールドで行われ、物理的に落ちるか、意識が落ちる、つまり気絶による戦闘不能によって決着となる。


 生徒達は校舎から試合を見ることができ、逆に言えば、あたし達はその衆人環視のもとで戦う。


 あたしは控え室でジャージに着替え、靴の紐をきつく結んでいた。靴が脱げたらいけないし、ちゃんと結んでいないと、この揺らいだ思考が、締まらないから。


 その時、部屋の戸がノックもなしに開いた。


「邪魔するぞ」

「邪魔するなら帰って!?」


 アレン君!? ノックはしようよ!


「なんだその目」

「ノックはしようよ!! ばか!」


 そのまま言っちゃう。


「俺がノックをするとでも思うのか」


 してよ!!!!


「デリカシーがないのは知ってたけど! 女の子の部屋だよ!?」

「控え室で漏水が発生したらしくてな。移動を余儀なくされた」

「別に良いけど……。ノックはしようね……」

「善処するかもしれない」


 善処にかもしれないをつけないで!


「ほんと、気が抜けちゃった。あたしだけ緊張してばかみたい」

「緊張してるのか?」

「だって今から人から見られながら戦うんだよ?」

「それがどうした。他人の視線なんて試合になんの関係がある」


 この人、心臓は鉄で出来てるし多分毛も生えてる。


「あたしは無理。見られてたら、比べてしまうから」

「何と?」

「あたしと、誰かを」


 誰かなんてぼかしたって、自分を騙せるわけない。あたしはいつだって、あたしとシオンを重ねていた。


 彼女に憧れたのは、あたしに無いものがあるから。


 それを羨ましいと思うのも、違うということは知ってる。


 シオンはなにか捨てて、それを手に入れたんだから。


 あたしがみんなに戦いを見られたくないのは、真剣な戦いの中で、浅ましい嫉妬をしているあたしを見られたくないから。


 でも、やっぱりアレン君にはそんなこと関係ないみたいだった。


「他人と自分を比べて、それが何につながる」

「あたしはあなたみたいには強くないんだよ……ごめん、わかんないよね」


 彼も、靴紐を結んでいた。

 それは、なんのためだろう。


 その手つきで何となく、それがあたしと同じ理由な気がした。なんでだろ。


「俺はお前が買っているほど強くない」

「え?」


 彼は持たない魔剣を持って、部屋を出ていった。


「開会式が始まるぞ」


 あたしの試合が始まる。


 そばにある薙刀を──握る。

「ちょっと面白そう」と思っていただけましたら……!


──下にある☆☆☆☆☆からご評価頂けますと嬉しいです(*^-^*)


ご意見・ご感想も大歓迎です! → 原動力になります!


毎日投稿もしていますので、ブックマークでの応援がとても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブクマ・ポイント評価お願いします!

同作者の作品

黎明旅団 ─踏破不可能ダンジョン備忘録─

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[良い点] まさかのナズナ目線とは、新鮮でいいですね。 ナズナもナズナなりに思うことがある、ヒシヒシとそんな感じが伝わって来て、このタイミングで視点主が変わるのは良いなってなりました。 たしかにナズ…
[一言] いよいよイペタム!! いったいどんな戦いが!? というかアレン君は女を女として認識してないんじゃないの(;゜Д゜) オジサンちょっとこの子の将来心配。 成績の方はともかくそっち方面心配。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ