171 崩壊した世界
※以降の話数は同シリーズ作品である『黎明旅団』をお読みいただきますとより楽しめます。
辺りを見回しながら、私は寂寥感とでもいうべき感情に支配されていた。この荒野にはもう何もない。私は永遠図書館という時の流れない空間で無限に近い有限の時間を過ごしたけれど、その事実のねじれが外に出た瞬間に、全てに波及するとは考えていなかった。
獅子座のレグルスが本来持っていた「永遠」を宿した私は、もはや全ての物質に対し、恒久的な無限をぶつける存在となっていた。だから、図書館にひびが入った瞬間、宇宙船に穴が開いたが如く、この世界、私の故郷の時間は永遠図書館に流出してしまった。
「……まあ、状況的に考えて、でしかないけど」
こんなふうに、独りで喋り出してしまうくらいにはこの荒野には孤独が満ちていた。私は祖国を滅ぼしたという重責を、まだ感じられていないのだ。それよりも大きな使命の為ならそうするしかなかったと、自分に言い聞かせている。
「でも、みんなの心は、私の中に眠ってる。それは事実だよ」
そう口に出してみると、ぽうっと胸が温かくなった。そう、今の私にはわかるのだ。物質は私が滅ぼしてしまったけれど、私に連なる人々は、私の中で眠っている。緊急隔離措置みたいな感じ。いつか器が見つかったのなら、また出会える。皆はまだ眠っている。
「じゃあ、無関係なのに殺された人たちに対して、何の責任も持ってないんだ。身勝手だね」
そう自分の口が言うと、それがあまりに残酷な真実だったので、私は荒れ地に吐いてしまった。もっとも、この身体になってからは無補給なので吐くものも胃液くらいしかないのだけれど。
私はウエディングドレスのような剣聖の戦闘外装を破りながら歩き続けた。単純にひらひらが邪魔だ。
しかし身軽になったところで、私はどこまで歩けばいいのだろう。一体どこまで行けば、王庭十二剣があるのだろう。この滅んだ世界を歩き続ければいいの? そうすれば世界の別の入り口があるとか?
「……──」
虚構剣は何も答えない。休眠状態に入っているのか。いや、多分もう一生喋らないんだと思う。私がこの戦いで真に得たものは、《冷帝》の思い通りにはさせなかったという現状、そして偽皇帝の遺筆の予言は全く正確だったという事実。私は世界を滅ぼしたのだから。
そして、この戦いで真に失ったものは三人。ひとりは八神ライザ。もう記録上の名前しか思い出すことはできないけれど、彼女は《魔笛》の供物になった。だからもう失われた。
二人目は藤堂イオリ。彼女はアカシックレコードにひびを入れるために自らの全てを使って燃え尽きた。その魂は円環から外れてしまった。
そして千里行黒龍。彼女は私がこの手で屠った。もう会うことは叶わない。
私は喪った者のことを考えながらひたすらに歩き続けた。正解を求めて、そして出口を探して。だけど、その答えは予想外の形で現れる。
「あれは……──」
遠くに倒れている人がいる。この全てが終わった世界で。
女の子が、倒れている。
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