169 終幕
質量と永遠の応酬が数年間続いた。互いに無休憩無補給でも戦えたのは、ここが時空からは切り離された時の流れない場所だからだろう。
でも、その数年試行する中で、私の中に確実に醸成される結論があった。それは、ミーちゃんが時間稼ぎをしているということ。
私が何かに成るのを待っている。その時間を与えてくれている。そして私自身も、それが何なのか、理解し始めていた。
私は声が思い出せないから、本当に思い出したことにはならないと思っていた。それは本当だ。でも、器に注ぐものとして、もうひとつだけ私が持っているものがある。それは感情だ。
初めて虚構剣を握った時に、私に流れ込んできた感情。それは、虚構剣に連なる全ての円環の感情。魔刃学園にまつわる、全ての感情だ。
私はミーちゃんがくれた猶予を使って、ひとりひとりと長い時間をかけて対話した。そしてようやく見つけた。
綾織ナズナは、この虚構剣の中に眠っている。
彼女が核となり、私に連なる全ての人をつなぎとめてくれているのだ。起こし方はまだわからない。でも、その力を借りるね。
その推論が正しいのかはわからないけれど、みんなから受け取った感情たちが背中を押してくれた。私は純白の衣装の背に光背をまとい、その線の一本一本に人を宿した。──つながる心が私の力だ。
「どうやったらあなたが起きてくれるのかはわからない。でも、あなたを起こす為ならなんでも試してみるね」
右腕に宿すは、不刃流──零式。
左腕に宿すは、幻影への変身──再会。
最高速度のお別れなんて言わないで。だって、あなたを待つ人がいるんだから。
幻影への変身──再会は、使用者が経験した全ての魔剣技を乗せて撃ち放つ、業。そしてそこに、永遠をぶつける。
私は親指が上に向くように、右手と左手をクロスさせる。骨と骨の間で情報とエネルギーがやり取りされ、循環し、そしてその中で、暴発するあらゆる感情が飛び跳ねる。バチバチと、バチバチと。
『数年かけて考え付いた答えが、人頼みか』
轟音の中で応える。
「そうだよ。だって、それが私だ」
『そうか』
「困ったら仲間を、先輩を、先生を頼る。痛かったら治してもらう。恋したら相談する。私はここで数えられない時間を孤独で過ごした。けれどそこにすらあなたという存在がいた。私はね、空白なんだ。一人じゃなんにもできないからっぽなモブ。でも、そんなあたしを剣聖にまでしてくれたのは、紛れもない、みんなだ」
背中に背負う光輪がばちばちと喜ぶように跳ねる。祝福の拍手にも思えた。腕のクロスの中を充填した何かが満たす。
それは愛だ。
「わかったんだ。自分を愛するってことは、ひとりではなし得ない。誰かに愛されている自分がいるということを認めて、そして愛してくれた人を愛することで初めて、本当の意味で自分を愛せるんだ。剣聖はみんなから背負うこの期待を、希望を叶える責を持つ。だから、叶えるよ」
ミーちゃんは心なしか笑ったような気がした。
「不刃流零式──」
これは別れじゃない。ただ愛を伝える儀式だ。
「──永遠に愛を誓う唄」
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