166 永遠を経て
とはいえ、だ。
藤堂イオリの声を思い出し、彼女という存在を虚構剣という身近に見いだせたとはいえ、今後の先行きがまだ決まっていない。
「あれ、そもそもなんでずっと黙ってたの……? 話しかけてくれたらよかったのに」
「それじゃ意味ないよ。シオンが自分から思い出すのが、この図書館で為すべき事でしょ? ……それにめちゃくちゃ長い時間一緒に居たら狂っちゃうし」
おいあなた、そっちが本音でしょうが。
「だって、シオンがループしてる回数おかしいよ! 漫画や小説でもSFものでループなら百から万の間だよ! なんで十の何乗回みたいな世界なの!」
「い、いや、知りたいことが沢山ありすぎて……」
「そのループに初めから付き合ってたら狂ってしまう。だから眠りについたんだ。虚構剣がレーヴァテインを保存してることにシオンが気づくまで」
なるほど……。ということはこれから数億回ループしようとしてるの、言いづらくなるな……。
「あ、ううん。気づいてくれたからもう大丈夫。わたし基本は虚構剣のなかで眠っているけど、用があったら呼んでくれたらいいから」
「なんか魔法少女のサポートミニ動物みたいだね」
「怒るよ?」
「すみません」
そんな軽妙なやり取りすら既に懐かしく感じて、私は嬉しくなった。いくら再生世界の人たちが限りなく本物に近いからと言って、本物ではないからだ。
「それで、あと数億回で足りるの? 《冷帝》を倒すの」
「めっちゃざっくばらんに聞かれた……。うーん、それがわからない。実際私は《冷帝》を目にしたわけじゃないから。でも、成長はしたと思う」
「例えば? 強い技を手に入れたとかな──」
詠唱。
「不刃流零式──終わりなき永遠」
──BRAAAAAAAMS。
瞬間、不協和音が永遠図書館を包み、そして何も起こらなかった。
「……え? 今のは……えーっと、音を鳴らす技?」
「ううん、私と虚構剣は防護膜で守られたたから感じなかっただけ」
「──まって、今何したの」
「『永遠』を一瞬で引き起こした」
イオリは呆然とした。私は「アンリミテッド」という割には効果の終わりが存在するなと思い、その能力の不完全さについて考えていた。
そして、降神オリガとの会話も思い出す。
『不刃流一式は、最も古いが故に最も体への負担が大きい。だが、単純である分最も強い』
『それを超えるために今までいろんな不刃流が作られてきたんですよね?』
『そうだ。だけど総合火力で一式を超えるのは無理だ。でもね、私の姉はそれを超える業をずっと考えていた。降神本家にも決して伝えることなく、ただ一人その考案に時間を費やした』
『……それが不刃流──零式』
私は「自分を愛する事」というオリガ先生のヒントがいまいちピンと来ていなかった。だから、自分で作った。折紙アレンが箱庭で習得しても綾織ナズナに対しては使わなかった極限の業。
「私は彼ほど優しくないから、これを使う。どこまでやれるかまだ分からないけどね。試作中だし」
「シオン」
「それに相手は《冷帝》だ。悪い奴には何してもいいんだ。だからね、零式をもっと改良して、本当に終わりのない永遠をぶつけて、廃人に──」
「シオンッ!」
「なに?」
「自分がなりたかったもの、なるべきもの、忘れてないよね」
「そりゃ剣聖でしょ、忘れてないよ」
「……今のシオンの顔、剣聖というよりも」
イオリは躊躇いながら震える声で小さく言った。
「──魔王だよ」
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