165 ループ&ループ
『お主、永遠図書館をなんだと思っている。ここには多元宇宙から多くの者が訪れるんだ。お主が勝手に散らかしていい場所じゃないぞ』
「お母さんみたいなこと言わないでよ。こっちだって同じこと繰り返すの、大変なんだからね。多少汚くなっても許してよ」
『……まあ、お主の履行回数は常軌を逸しているとは思う。普通の人間なら百や千で気が狂うはずだ。終わりなき半年を繰り返すなど、永遠があったとしても、やれる人間はいない。すまなかったな、邪魔をした』
「あいや、その、えと、掃除します……」
繰り返すことがすごいという少しの自負があったので、ミーちゃんに強く出てしまったけど、元来これは私の力でもなんでもない。永遠図書館というこの世の理を司るものを借りているだけ。自分には何もないということを、改めて、身に染みて理解しないとな、と思った。
繰り返し、と簡単には言ったが、今私が行っているのは全ての可能性の精査だ。方法は、私が魔刃学園に通っていた半年間が本になったものを本棚から取り出し、私ごと虚構剣で貫く。すると、情報を吸った虚構剣が、それをまるで現実のように再生して、真実に限りなく近い虚構を経験することが出来る。
一周目に門を十一時間殴ったことから、他の学生たちがチャットルームで話していたこと、学生名簿や、十三獣王の情報。これまで私が辿ってきた軌跡を、私は全て経験した。
ただ、時間にして数年前、海に遊びに行く可能性の世界を覗いた時に感じた、声を知らないという悲しさは、今もずっと続いている。
数年とはいえ、実際には時間の経過がないので、そこまで昔のことにも思えないけど。
ともかく、私はここで力をつけて《冷帝》を倒す前に、みんなに会いたいと思っていた。折紙アレンと綾織ナズナを思い出すということは、声も含めて、彼と彼女の全てを思い出すことだと思うから。
けれど、折紙アレンについてはどうすればいいのかわからない。彼の記憶の最期は、闇に溶けてゆくところで止まっている。綾織ナズナとどういう話をしていたのかは霧がかかって見えないのだ。ただ、何となく《冷帝》が関わっているような気はしている。
そして綾織ナズナ。彼女が今どこにいるのかもわからない。彼女が折紙アレンに勝って、虚構剣を手にしたところで、再生は終わるのだ。
思い出すということは、取り戻すということ。
私はそれを諦めるつもりはない。二人の声を取り戻──。
「声?」
私はそこでふと気が付く。無限に近い有限の時をここで過ごしてきたのに、なんで今まで忘れられていたんだ。
永遠図書館に来る前に、虚構剣は喋っていた。
「あれは虚構剣の声だと思ってたけど……」
虚構剣の声は確かに、自らを藤堂イオリだと示唆した。
寮で私と同室だった、不思議な女の子。かわいくって、繊細で、だけれど誰より心の強い、本当は魔剣レーヴァテインの女の子。
「そうだ、虚構剣は──全ての王庭十二剣を模倣する」
私は虚構剣を撫でて、呼びかける。その名を、呼ぶ。
「やっと気づいてくれたね、シオン。おはよ」
虚構剣は、純白のイオリに変化する。それが偽物だと知っていても、その声だけは本物だった。
「まずはひとり目だね。どんどん、いこっか!」
私は十の七京乗回の繰り返しの果てに、藤堂イオリを取り戻した。
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