163 魔王
「つまり私は最終決戦の為に、この時間の流れない『永遠図書館』で修業をするってわけだね!?!?」
『お主の良い所は物分かりの良い所だが、距離を詰めるのを許可した途端にタメ口にするのはどうかと思うぞ。我は一応龍王だ』
「でも長い付き合いになるんでしょう?」
『はぁ……。まあいい。話を進める』
椅子の上に私が座って、その太ももにミーちゃんは座った。驚くほど肌がすべすべで、まだあまり東京を壊した張本人だという感覚がない。
『いや、東京を半壊させたのは我だ。間違いなくな。……だが、真実は違う』
「?」
『言い訳に聞こえるだろうがな、この話には裏話がある』
ミーちゃんの顔は見えないが真剣そうだ。私はきゅっと抱きしめた。
『あの時、我は東京どころではなく、この世界線を破壊しようと動いていた。我は質量を司る王。時間さえあれば、そんなことは造作もなかった。だが、それは我が自由意思によって行った事ではない』
「誰かに命令されてたの?」
『命令どころか、我はあの時乗り移られていた──《冷帝》にな』
度々聞く《冷帝》という単語の持つ重みが次第に増すように感じた。きっとその存在にも名前があるのだろうけど、誰もその名前では呼ばない。それを符号でしかとらえない。逆にそうでもしなければ危険なのかもしれない。
『《冷帝》とはその名の通り、冷たい皇帝だ。誰が奴をそう呼び始めたのかは知らないが、それ以上に相応しい名もないだろう』
「具体的には《冷帝》は何をしたの?」
『お主は簡単に聞くな……。悪い事ではない。むしろ過度に恐れていても戦うことが出来ないからな』
ミーちゃんは少しだけ震えた。龍王を震えさせることがあるという事実に総毛立つ。
『《冷帝》は多元宇宙の支配者だ。この世に生まれいずる宇宙の、六割は今奴の手中にある。奴は自ら赴き支配するに飽き足らず、支配した宇宙から分岐した世界線も全て管理している。割合こそ変わらないが、奴は指数関数的に増え続ける宇宙を、御している』
あまりに壮大な話で私は呆然とした。でもそれが本当だとして──。
「そんなのにどうやって勝つの……」
ミーちゃんは私の太ももから降りて、向かい合わせになるように私の太ももにまたがった。
「あっ、ちょっ」
『奴が持っていなくて、我々だけが持つ──いや、お前を含む数人だけが持つものがある。それはなんだと思う』
「えっと、そんなのなさそう」
『ああ、その通りだ』
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『お主には何もない。本来誰にでもあるはずの、嫌悪、差別、偏見、そう言った負の根源、人間を動かす原動力たる「悪」がない。お主はだからこそ真っ白で清廉潔白で空白なのだ』
何もないからこそ。
「そこにはなんでも入れられる?」
ミーちゃんは頷いた。
『我にも耐えられぬ永遠を、きっとお主なら越えられるだろう。この永遠図書館には時間が流れない。そして、ここの蔵書にはこの世の全情報が書き記されている。お主は永遠の時間を使ってアカシックレコードをその身に宿し、ラプラスの悪魔をも超越する悪魔──魔王となれ』
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