162 ブラックミザリー
そこは静寂に包まれていた。重い空気が漂っていると思ったのは、辺りが天井まで伸びた本棚に囲まれているからだろう。天井といっても、その天井は全く見えない。遠すぎて視認できないのだ。つまり、永遠にも思える本棚が、私を囲んでいた。その本の重みや、静謐さが、私をここは特別な場所であるというふうに思わせた。
藤堂イオリ、って言ったかな、この喋る魔剣、虚構剣。あなたを信じてよかったよ。私はそう思いながらすっと撫でてみる。魔剣はもう話さなかった。話す気配もなかったので、黙ったというよりは、話す機能を消失したという印象に近い。
円形のホールのような空間、ゴシック様式、天井まで伸びる本棚。そして本棚と本棚の間にあるステンドクラスから差すカラフルな陽の光。
この空間を知っている気がするけれど、やっぱり知らない気もした。
多分、この虚構剣から流れ込んできた感情のひとつなんだろう。
にしても、虚構剣は私にここで何をさせたかったのだろうか。まさか本を読めとかそう言うことじゃないよね……?
「あ、いやでもそうかもしれない……。オタク的に考えてみると、こういう特別な空間では時が流れないって言うのが定石で、最終決戦の前にここで備えるんだよね。特訓をして、最期の局面で、待たせたな──みたいに!」
『一人で何をぶつぶつ言っておる』
ひょえっ!
誰もいないと思っていたのでオタク全開でひとりお喋りしてたら、後ろから声をかけられて心臓がマまろび出るかと思った。ふっと振り返ると、そこには白いドレスを着た、驚くほど白い肌と驚くほど黒い髪を持つ少女が居た。
『お主に「窓」をやって以来か。あの時は因果を奪ってみたが、良い展開にはなったようじゃな。失うことで手に入れるものもあるということだ。そのままお主が器として完成すれば──なぜ不思議そうな顔をする』
「だ、だってのじゃロリがわけわかんない事並べるから……」
『──お主、巻き戻しをしたのか? ……なんて馬鹿なことを。いままで育てたのが水泡に帰したな』
少女は呆れたようにため息をつき、ぱんと指を鳴らすと椅子を出現させ、それに座った。
「あの、あなたは誰ですか? 何を知っているんですか?」
『……だがコイツが巻き戻らなければならない程のことがあるということは──《冷帝》と偽皇帝の遺筆か。ならば納得がいく』
ひとりで何かを納得した少女はすっと顔を上げて私を見た。
『我の名は千里行黒龍。総ての質量を司る王。これからお前に全ての知識をやる。だがそれは永遠にも近い苦しみだと思え』
「千里行黒龍──」
『いや、お前はその名で呼ぶな。こう呼べ』
足をいくつもの鎖に巻かれた龍王は少し悪辣な笑みを浮かべる。
『ミーちゃん、とな』
お読みいただきありがとうございます!!!
続きが気になった方は☆☆☆☆☆からご評価いただけますと嬉しいです!!
毎日投稿もしていますので、是非ブックマークを!
ご意見・ご感想もお待ちしております!!




