161 対話
■SIDE:浅倉シオン
気が付くと私はまだ入学もしてない魔刃学園の中に侵入していた。あの騒ぎに遅れて気が付いた大人たちが一斉にやって来て、私は隠れざるを得なかったのだ。でも、なぜ不法侵入してしまったのかはわからない。
不思議だ。
この剣、虚構剣を握ってから、この学校の全てが懐かしく思える。
『そりゃそうだよ、だってシオンはここで暮らしていたんだから』
「うひゃい!?」
背中がもぞっと動いて、少し温かくなった気がして、背負った魔剣、虚構剣が急に話し出したと言うことに驚いていた。
「魔剣が……喋った……」
『門が喋るなら魔剣もしゃべるよ』
そりゃまあ……そうだけど。
私はそのまましばらく歩き続けて、広い競技場のような場所に辿り着いた。地面には焼けた跡や傷が残る。魔剣師候補生はここで何度も戦いを繰り広げてきたんだ。
不思議とその場所すら、私にとっては懐かしかった。むろん記憶があるわけじゃない。感情が、胸がそう言っている。
『シオンはこの場所で折紙アレンや綾織ナズナと沢山の研鑽を積んだんだ』
「それってどういうこと?」
『この時間軸じゃ、まだ行われていない事。未来にあなたが通る予定だった道の話だよ』
「どうして未来のことを知っているの? ……あのアレンって人も、私に思い出せって言ってたし。それが大事なことの気はしてるんだけど、理解が魔まだ追いついてなくって……」
『無理もないよ。だってあなたは選ばれし者だけど、この時間軸ではまだ何も知らないんだから。そして、私はそれを伝える責任を持つ者』
「あなたはただの魔剣じゃなさそう」
『ただの魔剣だよ? 他よりちょっぴり自我が強いだけ』
「私は何を忘れているの? いや、違うか。忘れてるんじゃなくて、まだ経験してないんだよね。……てことは、アレンさんは未来から来た?」
『その通り。折紙アレン、そして綾織ナズナ両名は、この先半年後の未来から来たんだよ。その未来では、この世界線の崩壊を食い止める話し合いがされてる』
なんだか壮大だ。でも魔剣さんが嘘を言っている様には思えない。
「その……思い上がりだったら恥ずかしいんだけど、そのふたりは、身を賭して私に未来を任せてくれた……とか」
『いい勘してるね。そう、まさしく私たちは、思い出も過去も、命さえ投げうってあなたに未来を託した。何も知らないあなたには酷な話だけどね』
自分が世界を守る……。想像がつかないけど、それを腑に落とす為には、やっぱり思い出さなくちゃいけない。
「私、それをやり遂げたい。二人のことを、思い出したい」
『いいね! よく言った! ……それが聞きたかったんだ。少し荒療治だけど、思い出すための通過儀礼をしよう。厳しい戦いになるけどやる?』
「うん、やるよ」
『浅倉シオンならそう言うよね。よし──《冷帝》ってやつが来るのも時間の問題だ。シオン、虚構剣を胸に突き刺して』
「え」
『私を信じて。……藤堂イオリのことは、もう忘れてしまったかもしれないけど、私はあなたなら私すら思い出してくれるって──信じてる』
信頼、友情。そんな感情が胸の中でうねった。私は確かにそれを受け取った。
『ありがとうシオン』
わかったとも、何も言わず、私は虚構剣を引き抜いた。そして、片手から両手に持ち、切っ先を、胸に向ける。皮膚が裂けるのも、胸骨を突き破るのも、不思議と痛みはなかった。そして、純白の魔剣は私を貫いた──。
『またどこかで出会えたなら、その時は──』
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