160 思い出し、取り戻す
■SIDE:浅倉シオン
眠っていたというよりは、気絶に近かったんだと思う。私は、門を殴り続けて、そして門に認められて、嬉しくなってそれから……。
そうだ、見たことないけどめっちゃ顔面のビジュ爆発した最高に推せる感じの女の子にハグされたんだ。めっちゃいい匂いしたし……。そうそう、そもそもあの子が居なかったら、私は門を倒せてなかったのかも。
でも、あの子と一緒にがんばれて、私は嬉しかったし、自分にはちゃんと力があるんだって思えて、前向きになれた。たった数時間の出来事だけど、私の人生を変えるような出来事になる気がした。
何かが焼けるような臭いが鼻を突いて、私ははっと目を覚ました。
すると辺りが滅茶苦茶になっていた。何事かと思った。そんな光景、あの黒い龍の事件でしか見たことがなかった。私はその荒れた学園前の中に、倒れている人を見出した。あの人どこかで──。
あ! そうだ、私の前に魔剣を使わない魔剣技、不刃流を使ってたイケメンだ。なんでこんなところで倒れて……。
まさか、来訪者とかいう奴の暴走!? だとしたら私なんてすぐに死んじゃう……。逃げないと──。
「……」
私は全身を包む恐怖を気合いで無視して、青年の方に走った。
「だ、だだ、大丈夫ですか?」
私がそう言うと、褐色金眼の青年はふっと笑った。
「やっと起きたか、シオン」
「なんで、私の名前知って──」
「……はは。もっと知ってるぞ。実家はパン屋。魔剣師名鑑を読むのと、マニアックな映画が趣味。運動は苦手だが、持久走は得意。砥石オタク。顔面がいい人間が好き。我慢強いくせに、泣き虫。剣聖を目指してる」
私は唖然とした。ほんとになんでそんな事知ってるんだろ……。私なんて友達もいないし、そんなずっと一緒に過ごしてたみたいに知ってるなんて。でも怖いと言う感情より、なぜか嬉しいと言う感情が勝った。
「俺は、折紙アレンと言う存在はもうじき死ぬ、魂を悪魔に──《冷帝》に持っていかれるんだ」
確かに折紙アレンと名乗った彼の身体はあちこちがひび割れて、その隙間から真っ黒な霧みたいなものが湧き上がっていた。蒸発して天に召されているようにも見えたし、それが黒いせいか、どこか冷たい国に墜ちていくようにも見えた。
「……だから計画変更だ。俺はお前を支えることが出来ない。だから、お前が為すべき事だけを伝える」
彼がそんなことを急に言うので、私はドキッとした。まるで漫画の冒頭みたいだ。私はどんな壮大なことを託されるのかな。世界を救うとか……?
でも、彼が言ったのはもっと別なことだった。
「綾織ナズナを思い出せ」
端的にそれだけ言った。多分、人の名前なんだと思う。でも心当たりはない。思い出せってことは、私が忘れてしまった事……?
そして彼は、彼の隣に突き刺さっている剣を示した。今気が付いた、純白の、恐らく魔剣だ。
「その虚構剣の中に、彼女は眠っている。全てを思い出した時、お前がその剣で──いつか俺を殺してくれ」
まって、わからない、まって、そんなこと……。
「急に言われても、わかんないよ」
わかんないのに、涙があふれて止まらない。今日であったばかりの人で、わけわかんないこと言ってるのに、行かないでと、心が叫んでいる。
「いかない、で──」
そう呟いた時には、折紙アレンと名乗った彼はもう黒い霞のようになって、消失した。殺してくれと言ったのだから、死んではいなくって、きっとどこかへ消えたんだ。でも、そうだとわかっていても、涙が、止まらなかった。
私は突き刺さる虚構剣と呼ばれた魔剣を見つめる。なぜか懐かしい感じがした。綾織ナズナという名が、その剣に響いたような気がしたんだ。
私は涙を拭いて、立ち上がる。虚構剣を手にする。
──BRAAAAAAAAAAAASH!!!!!!!!!!!
力の濁流が身体の全細胞を駆逐し、塗り替え、作り変えてゆく。自分の身体が別なものに置き換わってゆく感覚。そして、自分の中にあった空白がなにかで満たされてゆくのを感じた。
それは記憶じゃない。でもそれに近い何か、そう、感情だ。
この魔剣を過去に握った総ての人間の感情が私の中に流れ込む。
私はもう一度使命を思い出す。
「綾織ナズナを思い出す。折紙アレンを取り戻す」
言葉にしても無い記憶は思い出せない。でも、それが自分のすべきことなのだと、今はちゃんとわかっている。
「やるんだ、私が。絶対に」
そして春──私は虚構剣を手に、進む。
終わりの始まりが、幕を開けようとしていた。
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