159 この拳に乗せるもの
■SIDE:綾織ナズナ
馬乗りになったあたしは、顔中に漆黒のひび割れが出来ていく折紙アレンのことを殴り続けた。でも逆にアレン君だってあたしを蹴り飛ばしてぶん殴ってきた。それはもはや戦いというか、子どもの喧嘩みたいだった。けれど一撃一撃が重すぎて、なんだか泣きそうになった。
その重さは、どっちもシオンに対する思いなんだ。
「お前が死んだらあいつがどれだけ悲しむか知ってるかッ!」
──SMASH。
「アレン君だってわかってない! どれだけシオンがアレン君の事好きか!」
──GRASH。
「うるさい、親友を喪う方がずっと辛いに決まってる」
「黙れ、好きな人が死んだらあの子は立ち直れなくなる!」
そう言ってあたしはもう一度彼を殴った。その拳はあごに入り、彼はマウントポジションのまま静止した。
「──……俺たちがいくら互いを譲り合った所で、今のシオンにはその記憶がないがな」
それは折紙アレンから聞く初めての弱音だった。まさか彼がそれを考えていないとは思っていなかったけど、彼もまだ割り切れてはいなかったんだ。
「あたしは不倒門の言うことを信じるよ」
「全ての次元が見えるってやつか?」
「そう。ここのシオンがあたしたちのことを知らなくったって、いい。誰もがあたしたちのことを忘れていたって、そんなのどうでもいい。浅倉シオンがきっと未来を斬り拓いてくれる。その切っ先を研ぐ石になれるなのら、あたしはなんだってする」
それがあたしの、覚悟だ。
すると彼は静かにうなだれた。
「そうだったな。覚えていて欲しいなんて、思い上がりだ。それに、あいつならきっと、忘れてしまった物すら取り戻してしまうだろうな。浅倉シオンは誰よりも優しいが、誰よりも強欲だ。誰かひとりでも不幸な未来なら、そんなものかなぐり捨てて、全員幸せな未来を目指すに決まってる」
折紙アレンと綾織ナズナ、あたしと彼の意見は一致した。
「じゃあこれで最期にしようよ」
「防御なし。互いの全身全霊を込めた一撃だ」
「あ、でもできれば顔はやだな。不細工でシオンに会いたくないし」
「それお前が負ける前提じゃないか」
「あ、ほんとだ。間違えた。へへ、ごめん。口では言ってもね……」
「気持ちはわかる。でも、俺はもう決めた」
「ごめん、そうだね。あたしも大丈夫、どこでも殴って」
殴る前に自然とあたしたちは手を取り合った、そっけない握手だ。
「あなたが恋のライバルでよかった。馬鹿で頓珍漢で、にぶちんで……。でも誰より浅倉シオンを愛してくれる人だから」
「同じだよ。お前が居なかったら俺は自分の気持ちに気付けなかった。お前に取られたくないから、俺は必死になれた。ありがとう、親友」
親友という言葉が改めてくすぐったい。よし、もう十分だ。
あたしとアレン君は互いに何も言わず、立ち上がって、正対し、拳に魔力を充填する。ふたりとも魔刃学園で学んだ全てをそこに乗せて。
放つ。
「不刃流無限式──」
「幻影への変身──」
最高速度のお別れを。
「──限りある命の煌めき」
「──君の記憶の片隅に」
終わりあるものを尊び燃やしたその拳と、総てのアーツを乗せ燦然と輝く強襲が光の速度では測れない速さですれ違い、時空すら歪むが、あたしとアレンはその瞬間を永遠にも感じた。
でも、終わりのないものなんてないし、この時間にも、決着がつく。
そして、音が遅れてやって来た。
──PIIIIIIN……、GRAAAAAAAAAAAAAAANSHHHHHHHH!!!!!!!!
そして、最後の戦いは幕を下ろした。
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