158 幻影への変身
■SIDE:綾織ナズナ
恐らくまだ一時間も経っていないけれど、あたしとアレン君は互いの全力を放ち続け、消耗戦になっていた。アレン君はたとえ疲れても、その背後にいる《冷帝》の呪いのせいで、止まることがない。あたしも、下手にシオンの全力をコピーしているせいで身体がぶっ壊れそうだった。
「でも先にぶっ壊れるのはアレン君の方だよッ! 不刃流九十九式、果てのない憧憬ァアアアアッ!!!」
──BRAAAAAAAAAAAASH!!!!!!
学校の外の道路を真っ二つに断裂するような光を放つ。これは箱庭──魂が向かった過去で降神マユラが使っていた技、そしてイーストパークでシオンが放った最強の不刃流だ。
千里行黒龍ですらこの攻撃にはその身を焼いた。だけど、あたしがこれを放つのは七回目だった。
「不刃流無限ノ五式──限界無しの反射幻覚」
──SLAAAAAAAAAAAAAAAAASH!!!!!!
高硬度の反射式を展開されて周囲の地面が反射光で溶かされる。当然その反射はあたしも食らうけど、藤原イズミのシールドで防ぐ。
「──それで終わりか? シオンはもっと頭を使ったぞ」
「へへ。煽るじゃん。ムカつくなァッ──!!!」
もはや詠唱すらせずに、記憶の片っ端から知っている力を総て放つ。千原ロナンのブレスはアレン君の脚を焼いた。苦悶に顔を歪めるけど、彼を休ませる向きは見られない。だが──。
「不刃流──殴打」
そう呟いた彼の声が耳に聞こえた瞬間には、既にあたしは数十メートルを吹き飛ばされていた。驚くとかいう次元じゃない。認知よりも速い単純最高速の打撃は、どんな高威力のアーツより痛い。
「はは……。腕折れちゃった」
ガードの為に出した肘の関節の蝶番が粉砕されて、あたしの腕は逆側に曲がるようになっていた。アドレナリンのおかげで痛くはないけど……。
「もう降参するんだ」
アレン君の狙いはずっとこれだったのかもしれない。神経インパルスよりも速い打撃なんて、想像もしなかった。もしくは神経伝達が鈍るまで削るのが、目的だったのか。ともかく彼は一枚も二枚も上手だ。彼は不毛な戦いはやめて、さっさと決着をつけようとしていた。
刃を持たない者が、背からダーインスレイヴを引き抜いた。こちらに向かって歩いてくる。
彼が見下ろす。
「殺すの?」
「殺したらお前がシオンを救えないだろうが」
「それはそうか。でも肘を折らなくっても」
「すまない。だが魔力循環で数時間あれば治るだろ」
あたしは命乞いのように話を続けた。
「ね、これで決着?」
「お前が降参してくれればいい」
「なんか懐かしいね。定期試験の予選もふたりで戦ったよね」
「ああ、お前はしぶとかったな」
「シオンに似たんだよ。良い所が似ました」
彼はシオンのことを思い出しふっと微笑んだ。瞬間──。
「コピー。不刃流──殴打」
あたしは光速度の98%の速さで彼の下あごをぶん殴った。
「──幻影への変身を舐めるなよ」
数十メートル先から、激昂する咆哮が聞こえた。
じゃあ、最後の模擬戦を始めようか。
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