157 そして終わり行く
■SIDE:綾織ナズナ
ラウラ・アイゼンバーグはあたしの知る限り三人いる。ひとりは八神ライザ。それはあらゆる世界線で、覇者になる前の名前だ。ライザ先輩は魔笛の代償で──亡くなった。
もうひとりは養護教諭さんが言っていた《破戒》という称号を持つラウラ。その人物についてあたしは何も知らないけど、覇者には変わりないという話だ。黎明旅団という組織を率いているらしい。
最後は《冷帝》の名を持つ本物の覇者。その存在をあたしは名前でしか知らない。でも、断片的な情報をつなぐと、《冷帝》が多元宇宙論のあらゆる世界を征服、破壊しているという事実があるらしい。
十三獣王も元は《冷帝》が造ったもの。世界を支配するための兵器でしかない。あたし達の世界はただ《冷帝》という神になろうとしている者の手のひらの上にあったんだ。
それの是非はともかくとして、あたしはきっとその人と戦わなければならない。世界を守りたいとか、人々の為とか、そんなマクロな理由じゃない。あたしはもっと矮小だ。ただ、浅倉シオンという少女の幸せのために、そうしたい。
シオンならきっと《冷帝》を倒して、世界に自由をもたらしたいって言うと思う。あたしはそんな彼女が好きなんだ。なら、やることは決まっている。
《冷帝》は倒すべき相手だ。
「アレン君は自分が何をしてるのか、わかってるんだよね」
「ああ。危険なことをしている自覚はある。ただこうするしかなかった」
自らを魔剣にし、第三者に操らせることで、最強に辿り着く業──終わりのない舞踏会。彼の身体から見える黒い靄の様なものは、操り人形の糸とでも言うべきか。
「《冷帝》は俺たちの戦いになんて毛ほどの興味も持ってない。奴がただ舌なめずりをしただけで、この世界はたちまち消えてしまう。それほどの『存在』としての格の違いがあるんだ」
「じゃあなんで力を貸してもらえたの? アレン君は何を代償にしたの──」
「浅倉シオンという最強の女と戦わせてやるって、言った」
あたしは不覚にも笑ってしまった。
「どんなに強い存在でも、最強って聞くと戦いたくなるもんなの?」
「ああ、そうらしい」
「じゃあ、あたし達ほんとにどっちか死んで、シオンを最強にしてあげなきゃね」
「当然だ。それにシオンが《冷帝》と戦うまでに必要な過程をすっ飛ばせる」
「それは確かに名案だ」
だけど、その前に折紙アレンの身体が崩壊したら?
彼のひび割れからは依然、彼を焼き尽くす冷たい暗黒が覗いている。
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