156 虚構決戦
■SIDE:綾織ナズナ
たった一瞬の煌めきが私の頬を掠めた。否、それを正確に避けることが出来なかったら、あたしは多分木っ端みじんに吹き飛んでいたと思う。折紙アレンの強撃というのはそれほどまでに強く、速い──。
「避けるのか。お前はもうちょっと隙のある奴だと思っていたけどな」
「あたしのこと信用し過ぎだよ。あたしって別にノロマじゃないからね」
それは強がりだ。バスケ部で培った反射神経なんて折紙アレンの前じゃ、人の手の動きと蚊の羽ばたきくらい速度に差がある。
だけれど、あたしの全てを以てして放つ魔剣技、幻影への変身なら、降神カナンと戦っているときのシオンすら再現できる。あの最高速度はギリギリ折紙アレンを上回る。
それもただの幻影への変身じゃない。形態移行したそれは、名を鮮烈なる記憶の執行者と言う。あたしの記憶に存在する総ての魔剣技を完全に再現する業。
あたしの最終兵器だ。
鼻に違和感を覚えて、手をやると、それが血液だとわかる。
「その能力、お前には過負荷じゃないのか。ナズナ」
「かもね、でもそれはお互い様じゃない?」
斬り結んだ折紙アレンの頬には断裂が入っていた。そのヒビの奥には漆黒が覗いている。黒い靄の様なものが沸き立っていて、彼が今能力の限界まで力を使っている事がわかる。
「見た目にこれだけ出れば隠しようもないな」
「それって不刃流?」
「ああ」
不刃流無限式──終わりのない舞踏会。
私が初めて見たそれは、決して今までの折紙アレンと比べてはいけないと思わせる異様さがあった。身体からは魔力が常に放たれて、彼の身体からは常に漆黒の靄が糸のように虚空へと伸びている。それに操られるように彼の身体は平気で音速を越える。
また一閃、また一閃と、あたし達はすれ違いざまに殺し合い、両者とも致命傷を与えるには至らなかった。
だけど、アレン君の身体は疲弊しているように見えた。
──きっとあれ、自分の力じゃない。
彼は言った。ダーインスレイヴとは刃のある不刃流だと。降神マユラから受け継いだ、究極の不刃流なのだと。
「それってさ、自分自身を魔剣にしてるんじゃないの──?」
アレン君は微笑んだ。
「聡いな、珍しく」
一言余計だ。
「不刃流無限式は己を魔剣にする。そして終わりのない舞踏会によって、その身を別次元の他者に委ねる。俺は誰かに使われることで、最強の魔剣になる」
嫌な予感がした。でもあたしはそれを聞くしかなかった。
「誰に身を預けてるの?」
覚悟の決まった目で彼は言った。
「時空の覇者、《冷帝》ラウラ・アイゼンバーグ。俺は悪魔と契約をした」
お読みいただきありがとうございます!!!
続きが気になった方は☆☆☆☆☆からご評価いただけますと嬉しいです!!
毎日投稿もしていますので、是非ブックマークを!
ご意見・ご感想もお待ちしております!!




