155 リメンバーユー④
■SIDE:綾織ナズナ
瞬間、上空の千里行黒龍を撃ち滅ぼした降神マユラは、不刃流を停止する。
降神マユラの身体が光に包まれてゆく。自らを《永遠の鎖》に変換しているんだ。彼女は微笑んでダブルピースを向けてくる。
「じゃあね、少女! 帰り道に気を付けてな」
あたしに言うよりも明るく、背中を押すように、そっと包むようにシオンに向けてそう言った降神マユラはやがて光となって消失した。そしてその光がシオンに収束してゆくと、ふっと少女が倒れ込んだ。
その少女をそっと抱えたのが、他でもない折紙アレンだった。
「隠れるつもりはなかったんだがな、ややこしくなっても困る」
「なんでこんなまどろっこしい事したの?」
「未来でお前と虚構剣を巡ってやり合うだろ。どちらかが勝てばどちらかは自死を選ぶ。その前に、本当にその価値があるのかわからせるために、幼少期のシオンを見せた。この子に命を賭ける価値があるのか、考えさせるためだ」
アレンはどうしてもあたしに死んでほしくないんだな。でもそれはあたしも一緒だ。
「アレン君はどうだった? 本物の愛じゃないってなった?」
「……はは。それはないな。逆だ。こんな状況でマユラ姉さんに憧れられる彼女だけが本物だ。俺はシオンに全てを託したい。シオンの為になら死ねる」
それを聞く前から、あたしの答えも決まっていた。
「あたしもだよ。なんか、ちっちゃい時を見たら一層だいしゅきってなった」
アレン君は「逆効果だったな」と笑った。
「じゃあ俺たち二人とも、この子の為に命をささげる覚悟があるってことでいいな。この子と、世界の為に」
頷く。
「それなら俺も本気が出せる」
「いいよ、本気出して。あたし、そんなに簡単に死なないから」
そして世界にヒビが入り始める。あたしの決意によって箱庭の試練が終了し、身体が元の時間軸に還り始めたのだ。
「いたっ──」
魔刃学園、校門前。あたしの腹部に刺されている隔離魔剣。これで飛ばされたんだな。でもいつの間に刺されたのかわからない。いや、明確に隙があった。体当たりされた時だ。
「『箱庭』から一瞬で帰ってくるなんてな。シオンも大概だが、お前もバケモノじみてるな」
「なんかさ、本物の剣聖みたら、ハラ決めなきゃってね」
「ならもういいんだな」
「もちろん」
「じゃあ、再開するか。叩きのめされても、文句言うなよ」
「そっちこそ。シオンに見せられない顔にしてあげる」
そして一瞬の微笑みと目くばせを経て、空気が破裂した。
──再戦、再開。
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