154 リメンバーユー③
■SIDE:綾織ナズナ
「そう言えば、マユラさんには魂すら視えているんですね……」
「ま、魂ならアレンもこの間来たからね。これ『箱庭』でしょ?」
あたしは頷く。
「なんでマユラさんは《鎖》になったんですか? きっとあなたは最強なのに……」
「私じゃ《冷帝》には勝てない。だから、ずっと勝算を探してたんだ」
「……その重い責任は彼女を未来で追い詰めます」
「申し訳ないとは思うよ。でもね、壁を乗り越えられない人間に、私は壁を与えない」
まるで神様のような事を平気で言う降神マユラ。けれどそれは決して嫌味な感じではなく、この幼いシオンの未来へ希望を託した言葉のように聞こえた。
「もしこの子がへこたれそうなときは、君が支えてあげてよ。降神でもないのに『箱庭』を使っているんだ。そういう状況なんでしょ?」
「当たり前です! シオンを守るのはあたしです」
「ふふっ。この子は恵まれているね。アレンもそんな事言ってたよ」
誰にも譲らないんだから。
「少女。君は本当に大切なものの為に、命を投げ出せるか?」
「はい。怖いですけど、それを喪うくらいなら」
「永遠の孤独に落ちることも厭わないか?」
「──はい!」
あたしはきっと今ここで、腹を決めた。
それを聞いて、降神マユラは頷いた。
「ふふ。そっか。ごめんね、本当に自信がないのは私なんだ。永遠に鎖になるなんて、ぶっちゃけ怖い。でもね、君みたいな勇気ある子に気合いを分けてもらえて嬉しいよ。ありがとう」
降神マユラはそう言って、ダーインスレイヴを引き抜いた。
『あ? お前なんでこの時間軸にいるんだ』
「アレン君に飛ばされた」
『カカカ、そうかまあ頑張れ。《冷帝》はそう簡単には殺せない。殺しても世界が道連れになりさえする。せいぜい足搔け。カカカ』
嫌なこと言うなぁとあたしはむっとする。でも、そこであたしは強烈な違和感を覚えた。
「……なんでアレン君が持ってきたはずのダーインスレイヴがここにあるの」
『なぜって、それは当然まだコイツの持ち物だからだぜ』
「じゃあアレン君はまだ──この時間軸にいる……?」
ぞっとするあたしを他所に、マユラさんの眼中には千里行黒龍しかなかった。
「スレイヴ。あれを落とさずに斬るにはどうしようか」
『我が名を略式で呼ぶな。正式にダーインスレイヴと言──』
「はいはい。で、どうする?」
『不刃流は万能に非ず──だが契約次第だ』
「生ハムの原木をやるよ。あれ好きだろ」
『……いいだろう。では構えろ。使え』
いつかイーストパークで見た、シオンが真似して使った業。
史上最強の不刃流。
「不刃流九十九式。果てのない憧憬」
その詠唱で世界は光に包まれ、耳をつんざく轟音とともに一瞬で巨龍は地に臥せる。そして落ちる瞬間に、その肉塊は蒸発していった。
じゃあね、と彼女が言ったような気がした。
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