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153 リメンバーユー②

■SIDE:綾織ナズナ

 しかし快活に笑った降神マユラは、フランクに続けた。


「あはは。この間プロフェッショナル出たからかな。私映り良かった? なんかメイクさんとか頑張ってくれたんだけどさ、化粧とか邪魔で苦手なんだよね」


 不思議だった。偉大なる剣聖パラディンにはまるで見えないのに、絶対に今ここで彼女には勝てないということが理解できる。


 そして、総てを見通されているような気もしていた。


「で、なんで私のファンが魔力なんて持ってんだろうね」


 そりゃそうだ。バレないわけがない。


「実は、たぶん未来から来ました。六年後の未来です」

「へえ。それは真実だね。魔力の揺らぎがない」


 折紙アレンはこんな幻影を見せて何がしたいんだろうと思った。


「私って六年後死んでる?」

「あたしの親友の中にいます。永遠の鎖になって、千里行黒龍(ブラックミザリー)を縛り付けてます」

「なるほど。それは暇そうだね」

「でもそのおかげで、あたしの親友は生きてます」


 そう言った時、空から龍の鱗が落ちてきた。バギギギという音を出して剥がれ、重力に引かれ落ちてくる。あたし達の頭上に。


 ──SLASH。そんな鱗も、降神マユラの前ではちり紙の如し。


「それは良いことだ。人を守るのは、私の仕事だからね」

「さすが剣聖パラディンですね」

「諦めが悪いだけさ」


 かっこいいな。


「人間は諦めないことができる。それが私たちの強さだ」


 そう呟いて、優しい頬笑みを浮かべ、そっと下に手を伸ばす。そこには小さな女の子がいた。


「──シオン」

「……あなたみたいに、なれますか?」


 幼いシオンはあたしのことが見えてないかのように剣聖パラディンに言った。


 剣聖は少しだけ悩んで、静かに「ならないほうがいい」と答えた。これから自分が鎖になるからだと思った。でも違う。今この国の魔剣師制度は牡羊座が都合よく管理し、その十三獣王キングスすら《冷帝》ラウラ・アイゼンバーグの手中にある。


 どこまで知っているのかは知らないけど、この世界には来ないほうがいいと、彼女はシオンに言ったのだ。


 でもそんな制止はシオンに通じないことをあたしは知ってる。


「あきらめなければ、なれる?」


 あたしは笑ってしまった。シオンは昔からシオンなんだな。そして彼女を彼女たらしめる核を作ったのは降神マユラなんだ。


「なれる」


 はっきりと言い切った剣聖パラディンはシオンの瞳に何かを認めた。そして今度はあたしを見ると、頷く。


 そうか、あたしが未来を伝えたから、降神マユラは理解したんだ。自分の運命を。ここは「箱庭」だ。折紙アレンは魂だけを過去に送る修行を、攻撃に応用して、あたしを過去に飛ばした。


 真剣な戦いの前に折紙アレンはこれを見せたかったのか。なぜかはわからないけど、きっと必要だったのだろう。だったら自分は、何かをちゃんと持って帰らなければならない。


「君もだよ、少女」


 見透かすように微笑む降神マユラがそこに居た。


 ──諦めなければなれる、か。


 それは、あたしに刺さる、いい言葉だな。

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