150 生贄
■SIDE:綾織ナズナ
「なんで……そんなこと……」
『知らぬ。ただ、この世界はある特異点を中心に回っておる。それはお前らが特異点と呼んでいる世界の裂け目のことではない。その存在が行動するだけで、世界線が幾重にも分岐する、稀有な存在だ。マルチバースの王、その特異点こそがラウラ・アイゼンバーグだ』
「ならマユラ姉さんが言っていた《冷帝》とかいう奴のことも知っているか」
『ああ。もちろん。《冷帝》の真の名こそ、ラウラ・アイゼンバーグなのだから』
あたしたちは、一瞬呼吸を止めた。
「じゃあ、八神先輩が総ての黒幕で元凶だって……言うの?」
『知らぬ。この世界線のラウラ・アイゼンバーグ──八神ライザとはほとんど会話をしたことがない。奴も被害者なのは変わらんだろう。同じ名、同じ存在とはいえ、同じ人生を歩んだわけではない』
「……それなら八神先輩がいちいち確かめるようにしてたのも頷ける」
アレン君が手をあげた。律儀か。
「俺は馬鹿だからよくわからんが、《冷帝》という覇王が宇宙を征服して周っていて、《破戒》というのがカナンに協力していて、八神ライザはこの世界を守りたくて──その全員がラウラ・アイゼンバーグという同一人物だということか?」
この人ホントにバカなんだろうか。まとめるの上手いじゃない。あたしはこくこくと頷いて、門にそれが合ってるか確認すると、深くは知らないけど言っていることに間違いはないということだった。
「なら水瓶座の巻き戻しで過去へ行って八神ライザを殺せば済むんじゃないか?」
「どうだろ……。八神先輩なら、もうすでに考えた後なんじゃないかな。それでもできなかったから、後継者を探したってことじゃない?」
「ならこの魔刃学園自体が後継者を探す為の箱庭だったとか」
「そう思うと辻褄が合うけど、学長先生がもう味方なのか敵なのかわかんないし……」
すると門が喋った。
『特異点を殺せば多重平行世界の崩壊を招く。それだけはよく考えて行え』
ダーインスレイヴはそれに同意するようだった。
『魔剣や悪魔にとって、物質世界は実に脆く、実にどうでもいい世界だ。それ故に、簡易な手出しなどはするつもりはない。だがな、我々とてそう簡単に見放せるほど薄情ではない』
『我に感情はないがな』
『ははははっははは』
この門と剣なんか意気投合してるし……。
「じゃあなにか手助けしてくれるの?」
『虚構剣のもう一つの特性を教えてやる』
刺さっていた剣は静かに言った。
『この魔剣は「本物」というものの信奉者だ。この魔剣に本物を捧げられるのならそうせよ。次にこの剣を引き抜く者が、最も真価を発揮した状態でその所有者となることが出来る』
獅子座が続く。
『本物とはつまり真実だ』
魔剣が言う。
『真実を見通す目を持たぬものでも持つ、唯一の真実。それは愛だ』
門が言う。
『愛を捧げろ! さあ! さあ! その剣で愛の為に──』
ダーインスレイヴは嘆く。
『──心臓を、貫け』
そして獅子座のレグルスは、囁いた。
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