149 ブランクオール
■SIDE:綾織ナズナ
「こいつがこんなにお喋りだったとはな」
「門も喋れば剣も喋る……」
『空虚なる漂白のことが聞きたいなら追加料金だ。何か差し出せ』
何かと言われてもあたしが差し出せるのは血くらいしかない。怖いけど魔力循環で塞がるよね……? でもこの時期のあたしってどれくらい魔力使えるの? うぅ……。みんなを代表してるのにこのザマじゃだめだ。
「あ、あたしの血でもいい?」
『女か。乳臭いガキは嫌いだが……。いや、お前の髪の毛を食わせろ』
「えぇ……」
手にバッサリ怪我よりはいいけど、髪の毛を食うって何? ちょっとキモい……。シオンがいつもお団子作ってくれるから気に入ってたんだけどな。
あたしは髪を解いて、肩下まで垂らす。
「お前、髪意外と長いんだな」
「そだよ。今から斬るけど……」
アレン君からダーインスレイヴを受け取り、それを背部に回す。髪の下にすっと入れて──。
『え、いや、もっと躊躇いとか』
「そんなざっくり切って良いのか?」
男性陣? の狼狽えを無視して、あたしはお気に入りの髪をバッサリと切り捨てた。獅子座が他人事みたいに口笛を吹く。
「よかったのか? 髪は女の命と言うぞ」
「髪と命が等価なら、あたしは髪を捨てるよ」
これはあたしの覚悟でもあった。もうあの頃のあたしとは違う。誰かの真似っこをして後ろに隠れているだけの卑怯者じゃない。世界を救うために、突き進む者だ。
『カーカカカカカカ。気に入った。降神マユラでも髪は食わせなかった。お前の雄姿に感激し、総てを話し、託そう。そして、選んで進め──』
カツン。あたしはダーインスレイヴを地面に軽く突き刺した。魔剣が話し出すのを待つ。
『空虚なる漂白。通称、虚構剣。長いからここではそう呼ぶがな。お前の背中にあるその白無垢は言った通り最強だ。
だが、これも言った通り、所有者によって振る舞いが変わる。偽物が振ればなにも斬ることが出来ないなまくらだ。斬れるのはせいぜい虚構のみ。
だが、本物を持つ人間がそれを振れば、総ての虚構として本気を出す。エクスカリバーの完璧な虚構となるし、デュランダルの寸分の狂いもなく同一な虚構となることが出来る。
つまりそれ一本であらゆる本物の偽物となることが出来るってわけだ。ただし、レプリカやコピーと言っても、それがレプリカと見做せるのは本物が隣にある場合のみ。虚構を虚構と見抜けるのは真実を見通す眼を持つ者だけだからな』
もしかしてシオンに渡す前に降神カナン先輩に触らせたのは彼が本物か見極める為?
『虚構を持つ人間こそ、虚構を持つにふさわしい。だから降神マユラはそいつを探していたんだ』
「でもなんでそんな最強の魔剣をナズナが持ってる?」
「これは受け継いだものなの」
「誰から?」
「八神ライザ──ラウラ・アイゼンバーグから」
ラウラ・アイゼンバーグという人物は、どの世界線においてもいずれ覇者となる存在。経緯とかは知らないけど、うん、持ってておかしくはないよね。
『ほう』
そこでずっと黙っていた不倒門──獅子座のレグルスが口を開いた。
『ラウラ・アイゼンバーグとは懐かしい名だな』
「なんであなたが知ってるの?」
『ははは。我を生んだものの名だからだ』
「え?」
『《破戒》のではない。別のラウラ・アイゼンバーグのアーツで我らは生まれた。世界線を観測し、統治するためにな。我が知るのはそれ故だ』
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