145 懐かしいひと
■SIDE:綾織ナズナ
『獅子座には代々永遠が与えられていた。《永遠》とは文字通り永遠だ。無限であり、終わりがない。──だが我は牡羊座にここへ封印され、その莫大な力を人の為に使う機会も失した。この箱庭は牡羊座が造った培養所だ。魔剣師なる者の軍隊を作って何がしたいのかは知らぬ』
「魔刃学園自体、虚構だって言いたいの……? 幼女学長が黒幕って? 信じられないよ──」
『信じずとも、真実は変わらぬ。お主のように学生は盲目的に兵士になっていった。抗ったのは降神マユラだけだ。だが、牡羊座は強すぎた。だから降神マユラは次代に託すことにした。自らを「永遠の鎖」へと変換し、こちらにつくであろう千里行黒龍を巻き込んで、封印した』
それって──。
聞くまでもない。それが封印されたのは、浅倉シオンの中だ。
「じゃあ、降神マユラは鎖の状態で今も──」
『どこに封印したのかは、さっき殴られて知った。その小娘の中に眠っている。千里行黒龍と共に』
だからシオンにはあらゆる因果の糸が結びついていたんだ。いつかシオンが語ってくれた、憧れの始まり。彼女が剣聖に救われた瞬間に、その剣聖は彼女の中に眠ったんだ。
それが事実ならあたしは──。
あたしたちは一体何のために──、ここに、いるって言うの──。
魔刃学園って、兵士って? 幼女学長は何がしたいの──。
あたしには、一体何が本物で、何が虚構なのか、もうわからなかった。
──瞬間。
「困惑しているようだな、ナズナ」
耳に聞き馴染みのある声が聞こえた。恋のライバルの声がこんなにも懐かしく思うのは、今のあたしが世界でたったひとりぼっちで、孤独だったからかもしれない。
「アレン……くん……?」
ここにいないはずの、そしてこの時間軸ではあたしに声をかけるはずもない彼が、なぜかあたしの方を向いて立っていた。
「マユラ姉さんの言った通りだった。この時間までたどり着けば、空虚なる漂白を手にした奴が現れるって」
「なんでこの魔剣のこと知って──」
「だがナズナだとは正直思っていなかった。シオンかカナンが巻き戻ると思っていたからな」
「……あたし、シオンが戻ったら自殺すると思ったの」
「俺が眠った以降のことについて俺は知らないが、シオンが何かを引き起こすのか?」
「未来ではそうなってる」
「……そうか。なら俺はお前に感謝しないといけないな。大切な人を失いたくない」
「返事もしないで眠りについたくせに。よく言うよ。シオン泣いたんだからね」
「ちゃんと返事も言うし、謝るさ。それもこの先の時間軸に辿り着いてからだけどな」
「……じゃあもしかして、アレンは過去から記憶を持った状態でこの時間まで生きてきたの?」
折紙アレンは頷いた。どこか前よりも逞しく見えた。
「俺は修行のために眠りについた。隔離魔剣で過去へ記憶だけ跳ぶんだ。成長するまで戻ってこれない。その修行を箱庭と呼んだ。そして俺が向かった過去にいたのが、総てを知っている降神マユラ、姉さんだった」
そして折紙アレンは自分の過去と状況について静かに語り始めた。
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