143 レグルス
■SIDE:綾織ナズナ
ピシっ。そんなコメディみたいな音が鳴ったのは、あたしとシオンが一緒に不倒門を殴り続けて7時間後のことだった。前回彼女が殴り続けたのが11時間だと考えると、ふたりで協力した甲斐はあったというものだ。
それにふたりとも疲れてはいるけど、ぶっ倒れてはいない。
『ほう。我を殴る人間がふたり現れるとはな』
不倒門はふと静かに思案するように話し出した。
「あなたにとって何か不都合なの?」
『否。歴史上、というのもおかしいが、繰り返す我の魂が、これは初めてだと言っている』
繰り返す魂という表現が引っかかった。
「まって。不倒門、あなたは仙石ネムリのループとか《魔笛》のループの記憶があったりする?」
『否。そんなことは知らぬ。だが、我を殴るのはいつでもその娘だけだった。その娘だけが我を素手で傷つけることが出来る。それはある才能によるものだ』
「えっと、あの、ごめんなさい私、なにも状況がつかめてなくて……」
昔の引っ込み思案なシオンがおずおずと言った。あたしはとりあえず何も言わずに彼女のことをぎゅーっと抱きしめてから、ちょっと休んでてと言った。シオンは「ふわふわだ……」とわけわからないことを言いながら、疲れが出てぶっ倒れるようにコテンと眠ってしまった。かわいい好き。
「ごめん不倒門。その力の名前ってさ《ブランク》って言わない?」
『知らぬ。我の認知は判断せず』
「じゃあ、言い換えるね。本物を見抜く力、的なことじゃない?」
『肯定する。そうだ。我を魔力無しに破壊できるのは、真実を真実として認められるもののみである。資格は物質だけに非ず』
「あたしにはその力がないけど、もしかしてこの剣の力とか?」
あたしは空虚なる漂白を背中から引き抜いて不倒門に見せた。すると不倒門は今までにない唸り声をあげた。
『興味深い。それは遠い過去の魂が知っている。王庭十二剣が一振り、空虚なる漂白。何も斬ることができぬなまくらだが、虚構だけを切り裂くことが出来る。ああ、そうだ。それは贋物を切り裂くのだ』
虚構を……切り裂く……。
『わからぬ。お前のような小娘がそれを持っているのが、我にはわからぬ。だが、それを持つ者は我を切り裂ける。我とは即ち虚構であるからだ』
「それってどういうことなの?」
『我という存在は「決して壊れぬもの」として生み出された。だがこの世には絶対的な絶対は存在せぬ。故に、決して壊れないという虚構を切り裂けるのは、虚構のみを切り裂けるその魔剣だけだということだ』
だから真実を見通す目──《ブランク》を持つシオンは魔力を使わずにひびを入れることが出来たんだ。
『そして虚構に正しき審判が下るとき、我はようやく解き放たれるのだ』
「え、唐突だね。あなたはなにかに縛られているの?」
『ははははははっはっはははははっはっはははっはっはははは──』
「???」
『知らぬのも無理はない。我は不倒門であり、それ以外でも以上でもないからな。だがこんな我にも昔には正しき名があった』
「名前って?」
不倒門は少しも躊躇することなく、その名を口にした。
『我の名は十三獣王が一柱。獅子座のレグルスだ』
あたしは膝から崩れ落ちた。
『我を、知っていたか?』
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