142 アゲイン・アゲイン
■SIDE:綾織ナズナ
涙と鼻水と血を流しながら、必死に門の結界を殴る少女が、あたしにとっては何よりも美しいものに見えた。
だって普通に考えれば無理だ。この世界に広がる魔法的なことは物理ではどうにもならない。けれど、彼女はそんな戯言はこの拳で打ち砕いてやると言わんばかりに殴っている。
本当にあたしは過去に巻き戻ってきたんだな。あの入学試験の日に。
あの日もあたしはここで彼女をただ見ていた。
皮膚は裂けて、骨が見え、周囲から嘲笑われても自分を信じることを決してやめないで、この世界の可能性を信じて、未来を勝ち取るために彼女は門を殴った。思えばこの時から、彼女には真実を見通す力、《ブランク》というのが備わっていたのかもしれない。あたしはそれに憧れたんだ。
……。
ブランクと言えば、似た名前の魔剣をかっぱらってきてしまったけど、これどうしよう。
あたしは中学校の制服を着ながら、純白の魔剣空虚なる漂白を握っている。一周目……零周目の方が正しいか。元居た世界と違うのは、あたしがこの王庭十二剣を持っているということ。
これの使い方聞くの忘れてたや……。
あたしは自分のポンコツっぷりに頭を抱えた。こんな調子でどうやって未来を変えるというんだ! しかもあたし自身この試験を突破しないと学内に入れないし──。
まて、あの時のことを思い出せ。あたしはたしか、シオンが倒れた後に彼女を助けるために先生を呼んで、そのおこぼれで不倒門に認めてもらったんだ。
あの時シオンは、自分一人ではひびを入れることくらいしかできないという劣等感を抱いた。本当はひびを入れることすら不可能なはずで、実際はとんでもないことをやってのけたはずなのに、あの子は明確にあそこでネガティブになってしまった。
もしもその劣等感が模擬戦の一件の引き金になったのなら。
あたしには史実を捻じ曲げてでも、出来ることがあるかもしれない。後ろ向きでネガティブで、鈍感主人公な女の子を、あたしがこの手で変える──!
そんなこと、どうやればいいのかもわからないし、出来るのかも知らない。でも、シオンはいつもこういう時、「やるだけやってみる」を選んだ。彼女の言葉に撤退の2文字はなかった。
だったらもう、あたしが何をすべきかは決まってる。
あたしは空虚なる漂白を背に背負い直して、真っ直ぐと不倒門に向けて歩を進めた。そして、なにも斬ることが出来ないと言われた魔剣で、不倒門に斬りかかる。当然斬れない。隣で私を見ている浅倉シオンは呆然とした。でもあたしはニッと笑った。
「もし万が一この不倒門に傷をつけられたらさ、親友にならない?」
呆然としていた少女の頬と耳が真っ赤になった。かわいい。
さて、いっちょやりますか。何時間かかるかもわかんないけど、気合いで不倒門殴り、傷がつくまで!
さぁ、アゲイン、アゲイン。
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