140 花束を君に贈ろう
降神カナンは努めて冷静に言った。私はそれに驚かなかった。
「魔笛は一度戻る度に、誰かの命を代償とする。指定された誰かだけは、巻き戻ることが出来ず、時間の濁流に取り残される──これを伝えたのはフェアであるためだ。シオン、覚悟はできているか」
「……できていると言えば嘘になります。でも、誰かがやらなければならなくて、それに犠牲が付きものなら、私は英雄になりたいので、この身を捧げます」
「変なヤツだな。英雄になりたいなんて願望、隠すべきじゃないのか」
「今はそういう時代ですよ」
私は震える手で笛を握った。
その時、誰かの熱い手が、私の手を包んだ。直後、私は殴られる。
「いてっ」
「シオン。あなたは馬鹿だよ。大馬鹿者」
ナズナが覚悟の決まった顔でこちらを見つめる、え?
「あたしね、シオンが好き。友情的な意味でも、家族的な意味でも、恋愛的な意味でも、好き、大好き。愛してるって言ってやる。……だから、あなただけが死ぬのなんて認めない」
ナズナは私の首から《魔笛》を引きちぎり、魔剣技を発動した。
「幻影への変身。Gravity プラスハンドレッド」
ナズナとライザ先輩以外の全員が地に臥せった。私はたとえコピーだとしてもこの重力には逆らえないことを知っている。自分が一番知っている。
私の手から、魔剣空虚なる漂白が取られる。
「はは、生贄の私だけは楽に死なせてくれるんだ。で? 君が戻って何をする? 情報の欠落、力の無さ。選ばれし者でもない君が──」
「選ばれし者じゃなくていいんです。神様があたしを選ばなくっても、シオンはあたしを見つけてくれた。それだけであたしは世界で一番頑張れる」
そうナズナが言うと、ライザ先輩は、八神ライザは、ラウラ・アイゼンバーグは、今までで優しく笑った。
「君を認めるよ綾織ナズナ。わたしを使って、跳べ!」
「なず、な、まっ、て」
まだお返事できてないのに。
「シオンには相手がいるでしょ? 今頃どこかで眠ってる王子様が」
その頬には涙が伝った。
「だい、すき、だよ」
ナズナ、置いていかないでよ。
「大丈夫、あたしきっと、なんど繰り返したって、やり遂げるから」
彼女はそっと跪いて、私のおでこにキスをした。
「なず──」
「じゃ、行ってくるね!!」
──PIIIIIIIIIIIIIIII……。
魔笛は盛大に鳴らされた。世界が泣きだすような、そんな音がした。
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