137 セットアップ・オール
すべての話し合いが終わって、私達はどっと力を抜いた。まるでこの空間を張り詰めさせていた糸が一瞬にして千切れたかのようだった。
「これだけの情報が集ってなお、わたし達は奴らに勝てるかわからない。マルチバースの向こう側にいるラウラ・アイゼンバーグが敵か味方かもわからないしね。ただ、わたし達には敵や他の陣営にないものがある」
ライザ先輩はゆっくり、されど的確に言葉を紡ぎ、私たちの思考を促した。私は私たちだけがもつものに心当たりがなかった。だけど意地悪な先輩はそんな私を見つめて問うた。
「なんだと思う?」
「……魔剣とか」
「魔剣がある世界なんて、この多世界の中にどれだけあるだろうね」
「意地悪ですよ先輩」
「ごめんごめん。じゃあ単刀直入に教えるよ。それは若さだ」
「若さ?」
それは全くもって納得しかねる回答だった。私達にある若さは、言えば「未熟」ともなるからだ。果たしてそれがなぜ良いものだと断定できるのか、私には不可解だった。
「もちろん未成熟という意味では私たちは大人や悪魔的な超常的存在には敵わない。だけれどね、心がそう簡単には壊れないという点では、決して大人に負けることはないのさ」
まるでそれは、彼女自身が、心が壊れるようなことを何度も経験したかのような口ぶりだった。そしてそれは事実だと彼女は伝えたかったのかもしれない。
「最後にわたしからもうひとつだけ言わなければならないことがある。わたしはね、もうすぐ寿命で死ぬんだ」
空気がシンと張り詰めた。そこに居た誰もが、自分と八神ライザという人間だけがその場所にいるように錯覚したに違いない。私の手をきゅっと握る、ナズナの小さな手が震えた。
「後継者を探すときはいずれ来るなんてさっきはもったいぶったことを言ったけれど、正直、あの時点で後継者探しは終わってたんだ」
「死ぬって──寿命って何ですか。私達にあるのは若さだって言ったじゃないですか」
「そう。正確にはわたしにはなくて、君たちにはあるものだね」
そう言う言葉遊びが聞きたいわけじゃなかった。だけどライザ先輩はもう総てを見透かしたように辺りを見回した。
「ネムリ。選定は終わったよ。この中から選ぼうと思う」
「うん、わかったなの。それでいいなら、いいと思うの」
何の話だ──。
「曽根セイレ、千原ロナン、綾織ナズナ、降神カナン、浅倉シオン」
五人は名を呼ばれ、私たちは何を言われるでもなく、自然に彼女へと目を向け、目を合わせた。彼女は首から下げた何かをすっと取り出した。
「私の持つ《魔鍵》、まだ別の世界に渡る前の《マクスウェルの魔笛》だ。君たちの誰かに、今からこの世界をやり直してもらう」
世界を──やり直す──。
「さて、誰がやる?」
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