136 セットアップ⑥
降神カナンの証言
降神は多い。だから呼び方はカナンでいい。
今日これをここで話すのは、君たちに死んで欲しくないからだ。
本物を視る眼。僕は「それ」をそう呼んでいる。
この広く広がる世界には欺瞞がある。嘘と醜聞が蔓延り、逃れることはまず出来ない。
だが、真実の眼を持つ者は、それを見極めることができる。真に勇気のある者、真に正しい者、真に強き者、真に優しき者。もしくは欺瞞に侵された者を救済する者。それが真実の眼だ。
降神マユラはその眼を持っていた。それは魔眼などではなく、特別な能力でもない。人間が生来持つ、馬鹿正直さ、心の清らかさだ。
僕は彼女のそれを《ブランク》と呼んだ。優しさで白いのではない。人を疑うという基本的素質の欠落だからだ。
でも、そこに空虚を持つからこそ、彼女はそこに、あらゆる怪異を棲ませた。魔を以って魔を食う、それが降神マユラという剣聖の正体だ。
だが彼女は死んだ。書類上でと言いたいが。事実、彼女はもういない。
僕達は最強の兵器を持たない。とはいえ、彼女を探し出そうとも思わない。今戻ってきた彼女が、まだブランクであるとは限らないからだ。
敵になったら、世界は滅ぶ。
だから僕はずっと、その予備を探していた。ライザも探していたみたいだが、ポストマユラになる人間を、ずっと。
だが、世界中を飛び回っても、ブランクを持つ人間などいなかった。人間の心は往々にして醜く、黒い。彼女の様に漂白された人間はいなかった。
そして、魔刃学園に還ってきたとき、浅倉シオンと出会った。
そう。君だ。
言うまでもないが、君には因果が集まり過ぎている。他者の言葉を借りるなら「重力」だ。だが、それは間違いなくブランクだ。
君の中は空虚だ。その空白を埋めるように、魔が集う。
千里行黒龍、不刃流、魔剣レーヴァテイン。──そして「窓」だ。
空虚な場所には穴が開く。その先は、別の宇宙だ。
この間の試合で君は《潮汐》という力を使ったな。あれは別の世界の魔王の力だ。
いや、養護教諭さんの言っていた《冷帝》とは違う。厳密に言えば──。いや、ともかく別のものと考えていい。君は、僕が契約する悪魔を使役する魔王と同じ力を使い、その魔王しか触れられないはずの僕に触れた。
君という器は魔王ですら降りる余地があるということだ。《魔鍵》もなしに君は多世界に干渉をする──。
その窓を使ってね。そう、何が言いたいって、もうわかるだろう。
君こそが特異点なんだよ。
もしこの世界と、他の世界を巻き込む戦争が起きるとする。言い方が違うね、確実に起きる。その時争点となるのは君だ。君を中心に主戦場は開かれ、君の為に幾億の人間が死ぬ。
本当は伝えるべきではないことだ。君を不安定にさせることが最も危険なのだから。でも、君が強い人間だと信じて伝えた。
君は剣聖になって何がしたい。人を救いたいか?
ならば強くなれ。
君を殺さんとする者を一振りで屠れるほどの強さを以て、上に立て。
それが、僕の最期の言葉だ。
そう、最期だよ。最後でなく、最期だ。僕は君たちに話し過ぎた。契約をしている悪魔、十三獣王の仲介者たる円卓の守り人に僕は契約違反で殺される。だけど、僕にはもうこの世界の運命を託せる人間がいる。
それだけで僕の生きた意味はあった。
この会が終わったらロサンゼルスに向かう。最後の悪あがきをしに。でももし生きて帰ってきたら、文化祭に混ぜてほしい。白雪姫の王子役をやってみたかったんだ。
いや、これが本当の最期の言葉になる。これだけは伝えなければいけない。僕の契約する悪魔の名は《定義》。
そして、その《定義》を使役する魔王の名は──。
《破戒》のラウラ。ラウラ・アイゼンバーグだ。
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