134 セットアップ⑤
養護教諭の証言
あれ、さっき学長センセぇおらんかった? は? どっか行った?
ほんまあの人自由人やわぁ。んでジブンらは難しい顔してなんしとん。
はーん。なるほどな。もう全部つまびらかにしようっちゅーことか。
まあええんちゃう? なんも知らんのに大義の為に戦うんとか意味わからんやろ。養護教諭としては、それで怪我だのなんだのが減るんやったらええと思うわ。ほんじゃウチはもう行くわ──。
おん? なんや眼帯。ウチの贅肉つまむなや。セクハラ!
え? なんや知っとったんか。ウチが降神オリガに渡した《魔鍵》のこと。
なんや降神カナンくん。君の方が詳しいんちゃうん?
知ってるだけっちゅーことか。ふぅん。ま、ウチの場合はそれを使ってきてるからな。
ええよ。話したるわ。でもな、あれはもうオリガに託したモンやから、あれをオリガがどう使うかはウチは関知せんとこやから。そこんとこよろしくな。
よいこらせ。長い話になるからちょい座らせてもらうわ。
これ聞いても、引くなよ~?
まず、ウチはこの世界出身じゃない。みんなからしてわかりやすいんは特異点の向こう側やな。
ん、そーか。多元宇宙論ってゆーてもわかるんか。厳密にはちゃうんやけど、簡単に言えば多元宇宙論でええわ。
観測可能な宇宙ってあるやんか。人間が観測できる範囲の宇宙。その外には定数が微妙にちゃうだけの宇宙が無限にあんねん。無限って簡単に言うけど、無限って無限や。量子変異の量子変異回数乗数分、世界はある。
そのうちの一個がウチの実家。もちろんこの世界もそうや。
ウチの実家はROOT-616。この世界とほとんどおんなじや。1999年に大断裂があらへんかった世界。でも魔剣師とかはなかったな。
ウチは日本から中東に派遣されとった医者やってん。特殊な能力もなんもないただの医者やった。
でもある日──《冷帝》が来た。
あらゆる世界を渡り歩いて、征服する覇者。その圧倒的な力に対して、核兵器程度しか持ってなかったウチらは蹂躙された。
ROOT-616は粉々に壊された。征服する価値がなかってん。
ウチの記憶があるんはそこまで。気がついたら別の世界におった。その世界は、大断裂って言う別の災害があった世界で、どこか似てんねんけど、何もかもがちゃう世界やった。
そこでウチを拾ってくれたんが「黎明旅団」っちゅー組織やった。当然知らんやろうけど、探検家の互助組織みたいなもんやった。
ウチはアイラ・オーブリーって女に拾われて、そこでROOT-616の医学を教えた。そしたらむっちゃ有り難がられたわ。
でもそれが目立ち過ぎたみたいで、ウチはまた《冷帝》に狙われた。だから、アイラにもらった魔鍵《シュレディンガーの銀鍵》で、多重平行世界に逃げた。世界を渡れる特別な道具や。
ウチのアーツ《治癒》はその途中で会得したもんや。
そんで最終的にこの世界に来た。十三獣王だの王庭十二剣だのがある──《冷帝》に対抗できそうな世界に。
今考えたら、ここに来る運命やったんかもな。重力が働いてるみたいに、ここにおったわ。この世界にはなんか特別なもんがある。
ウチが言えるんはそんなもんやな。《魔鍵》は持つべきもんに渡した。ウチは主人公でもなんでもない、舞台装置やって理解しとんねん。
誰にも死んでほしくない。だからこの話をした。正直、《冷帝》の話をすること自体が危険かもしれへんけど、今のアンタらやったら大丈夫やと信じてる。
かすり傷くらいやったら、治したるから、勝てよ。
ウチは最期まで、見守っとるから──。
お読みいただきありがとうございます!!!
続きが気になった方は☆☆☆☆☆からご評価いただけますと嬉しいです!!
毎日投稿もしていますので、是非ブックマークを!
ご意見・ご感想もお待ちしております!!




