128 未来だよ
ライザ先輩は昔から最強なんだと思っていた。そう言うと、先輩はぷっと吹きだして笑い出した。
「生まれつき最強の奴なんていないよ。ああ、カナンは別ね。あとはマユラさんとか。でもわたしは違う。力がないと不安になるんだよ。本当に守りたいものを守れるのかってね」
「ライザ先輩が守りたいもの──」
「なんだと思う?」
「えっと……平和とか」
「ぶふっ……。本気で言ってる? 浅倉ちゃんじゃないんだから」
そう言ってから一気に飲み干したライザ先輩はふうっと息を吐いて呟いた。
「未来だよ」
未来。その言葉に、彼女のどれだけの感情が込められているのかはわからなかった。だけど、それが嘘偽りのない本当だということはちゃんとわかった。
「継承すべき時が来れば、私はこの手綱を渡す。後輩にね」
「どこかへ行っちゃうんですか?」
「さあ。行くかもしれないし行かないかもしれない」
けむに巻く様な良い方だ。
「でもその時は必ず来る。それだけは真実だ」
私はまたパンをこねながら、そっと思ったことを口にした。
「だったらその手綱、私が握っちゃだめですか」
「ばか。なんで君はすぐ厄介事を受けようとするのさ」
「寝られなくなるのは、ひとりで良いって思います」
そう言うと、ライザ先輩はこちらに歩いてきて、こつんと私の頭を小突いた。
「わたしは君も含めたみんなが眠れる世界を作りたいんだよ。おばかさん」
ライザ先輩には敵わない。やることも言うことも無茶苦茶なのに、この人ならやれそうって思う。だからしばらくは、その時までは、ライザ先輩が思う通りに事が運べばいいと、そう思った。
「まあ、キミがその筆頭候補であることは変わらないけど……。あとは折紙アレンとかね」
「うっ」
「しまった、今の君には地雷か……」
あれからアレンからは結局何の連絡もなかった。ラインを開いては閉じ、開いては閉じを繰り返した。通知が壊れているのかもと思いもしたけど、そんなことはなかった。
「そうか、あいつもひどい男だね。女の子を泣かせるなんてさ」
「泣いてないですよ!?」
「そんな君に良いことを教えてあげよう」
「いいこと?」
「八神ライザ情報網をフル稼働させて手に入れた折紙アレンの行き先」
「!?」
私はパンを適切に窯にぶち込むと、先輩の元に飛んで行った。
「彼は今、封印処理が施された旧ラタトスク寮の談話室に居る」
「えっなんで」
「さあ。でも、行ってみれば?」
「いいんですかね……勝手に入って」
怖かった。本当は彼が私に興味なんてなかったらと思うと、身が裂ける思いだった。それでも先輩は行けと言う。
「後悔するようなことはやめな。ほぅら、走れッ!」
──PACHIN!
背中を思い切り叩かれて私は悲鳴をあげ、逃げるように駆けだした。そうしたら感情がぐっちゃぐちゃになってもうわけわかんなくなって、走れ、走れと私の足を動かした。
旧ラタトスク寮まではまだまだ走る。
お読みいただきありがとうございます!!!
続きが気になった方は☆☆☆☆☆からご評価いただけますと嬉しいです!!
毎日投稿もしていますので、是非ブックマークを!
ご意見・ご感想もお待ちしております!!




