127 眠らない者
地獄の飲み会が終わった翌日。私はパンをこねていた。それはもはや呪いとかの類で、それをしないと気分がしゃっきりしない。
他の一年生は疲れ果てて寝ているし、成人ズはそれどころではない。ただしライザ先輩だけは魔剣を召喚してその魔剣に掃除をさせていた。なんかこういう海外のアニメーション映画あったなあとか思いつつ。
すると先輩が私に声をかけてきた。全然酔ってない雰囲気があって不思議だった。私は先輩の要請の通り、ウォーターサーバーのボトル部分だけ引っこ抜いて持っていく。
「悪いね。いちいち注いでたらきりがないから」
「先輩は倒れないんですね?」
そう訊くと、先輩は少し神妙な顔つきになって微笑んだ。
「私は酔えないんだ」
「え、あんなに酔って騒いで吐いてたのに?」
「そ。魔剣の力でもなんでもなくて、ただ酔えないの」
「カモフラージュってわけですか」
そうそうと先輩は水を補給する。
「酔って何もかも忘れられたのなら、どんなに幸せか」
そう呟いたのは、私に聴かせるためだったのではなさそうだった。つい零れてしまったというような。
「や、忘れてよ。あははは。ごめんね、昨日はあんなカッコいい先輩ムーブしといてこれじゃ世話ないね」
「先輩、寝れてもないですよね」
「え?」
目の隈があるわけでも、疲れていそうというわけでもない。それはある一つの事実。魔剣師は力を使えば使うほど、不眠状態になる。脳が休むべきタイミングで、魔力が活動電位を発するのだ。それは当然で、魔力は元来人間が意識下において制御するもの。脳が無意識に休息を欲するのならば、魔力はその無意識には従わない。
私も初めはショートスリーパーじゃなかった。でも段々眠れなくなって、今では一時間程度で目が醒める。それが気になって図書館で調べて分かったのは、魔力性睡眠障害というものがあるという事実。
アレンの様に幼少期から魔力の扱いに長けている人間は、睡眠に支障がない。でも後天的に魔力を獲得した人間はそれに陥ることがある。
一通りを説明すると、そのことは既に知っていると言われた。
「養護教諭さんとカナンにしか気づかれたことないんだけどね~。同族は匂いでわかるか~」
「同族?」
「わたしもね、入学したての頃はただ元気なだけの小娘だったんだ」
ライザ先輩はそんなことを言い始めた。ほんとに?
「ライザ先輩はずっと最強なんだと思ってました。何となく」
そう言うと、先輩は吹きだして笑い始めた。
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