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125 お酒はハタチから

 アレンが走ってどっか行っちゃってからしばらくして私はやや落ち込みながら食堂に向かった。するとそこは地獄と化していた。


 両手にワインと日本酒の瓶を掲げるライザ先輩。小脇に抱えられるふたりの七年生。


「あははは。焚きつけたのはわたしだけどまさかマジギレで跳んでくと思わないからさ~。やーいハヤテの欲求不満~」


 荒川ハヤテ先輩こと、ブチギレぶっ壊し七年生。元フェニックスの暴走機関車は、二重人格なのかというレベルでしゅんとしていた。いや、あの人は普段からあんな感じだった気がする。あの授業でライザ先輩が焚きつけたのか……。しかし暴走とはいえあの強さはやっぱり七年生だ。


「んでこっちは自分より強いかもって思ったらビキビキにキレるんだもん。大丈夫大丈夫、アンタは強いよセツナ」


 新羅セツナ先輩はライザ先輩の胸に横顔をこすりつけられながらむくれた顔をしている。こっちはこっちで授業の時とは違う。プライドが高いらしいけどどうせライザ先輩が余計なことを吹き込んだのだろう。


 まあ、本気の七年生とやりあえたのは確かに楽しかったけど。


 端っこで潰れている成人組は死屍累々積み重なっている。まさに授業の終幕時の逆の映像である。で、それとは反対にまだお酒が飲めない一年生と二年生は和やかにお茶とかジュースを飲みながら歓談していた。


 傷の大きかったナズナも養護教諭さんが今も付きっきりで面倒を見てくれているおかげでニコニコ元気にしている。


「あ、シオン!」


 ぺかーっと笑顔を輝かせるナズナ。私はよっと手を挙げてそっちに向かう。みんなの視線が一斉にこちらを向く。ああ、あの試合のこと色々聞かれるかも。ちゃんと説明でき──。


「アレンと何があったの!?」


 え?


「折紙が荷物持って出てくっていうから。どうせまたアンタとなんかあったんでしょって話してたのよ」


 スズカがそう言うと周りの皆もこくこく頷く。


「えっと……。実はその、さっき抱きしめられて」

「抱きしめられて!?」

「だから、その一緒に居たいなって気持ちがあふれて、告白して」

「告白して!?!?」

「……そしたら覚悟が決まったとか言って走っていっちゃった」


 そこで静まり返る一年生一同。


「ヤローぶっ殺してやる!」


 ナズナがむき―! と立ち上がった所を乙女カルラと姫野がどうどうと抑えつける。


「はぁ、あいつまた変な方向に走り出してやがるな」


 姫野の呆れ声に一同が頷く……。


「でも私はアレンが逃げるような人じゃないって知ってるから待てるよ」

「うっ! 眩しい!」


 ナズナがそう言って倒れる。そんなコミカルにしなくても。でも、それは彼ら彼女らの気づかいなのかもしれない。私にまつわる色々を慮ってくれているのだ、きっと。


 すると牧野がハンバーグをもぐもぐしながら言う。


「まあ、聞きたいこともあるけど、それより浅倉さんと折紙のことの方が気になってるんだろ」

「え、十三獣王キングスとかの話より……?」

「だってぶっちゃけ僕とかそういう話聞いてもどうしようもないしな。困ってたら手伝うけど、今んとこできることないから。楽しめることを楽しみたい。的な?」


 牧野の意見は新鮮だった。


「……そっか。楽しんでも、いいんだ」

「ま、準備さえしていればってことでしょ」


 遠くからライザ先輩がそう言ってニッと笑う。


「だって、文化祭やるんでしょ?」


 私はうーっと力がこもり、おっきな声を出した。


「はいッ! 文化祭やりたいです!!!!」


 その頃には解放された新羅セツナ先輩と荒川ハヤテ先輩は変わらずぐでぐでだけど、なんとかこっちをみて、ぐっとサムズアップした。


「んじゃ、ちょいと面倒なことはしばらく先輩にまかせな。学校のことは、君らに任せるからさ」

「任せろ。オエエエエエエエエ」

「ああ、任せオロロロロロロロロロ」


 そう、もう私たちは任せられる立場になったのだ。学生級ペイジから専門級エキスパートへの昇格。それは、私たちの意識も今後変えるだろう。


「浅倉。オレらのことも忘れんなよー」


 振り返ると仲間たちが居た。


 それだけで私は、なんだか無敵になれた気がした。


 戦いはまだ始まってもいないのかもしれない。それでも、もう後戻りはできないし、変わってゆくものは変わってゆく。


 変化の秋が終わり、やがて静かの冬が来る。


 それが静謐なのか、嵐の前の静けさなのかは今はまだわからない──。


 ところでアレンはどこいったわけ……? 泣きそう。

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― 新着の感想 ―
[一言] その後、アレンの姿を見たものは誰もいない……(ォィ
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