123 守りたいもの
お店を出てイーストパークに戻った私は盛大に吐きそうになったけど、カナン先輩が平衡魔剣をツプッと刺してくれたおかげで吐かずに済んだ。
「先輩は酔わないんですね」
「アルコールには弱いが、時差は問題ない」
まあ、普段から色々依頼とかで飛び回ってたら大丈夫か。
オリガ先生はもう少し飲んでいくとのことで、打ち上げに行っておいでと送り出してくれた。カナン先輩は真顔で必死の抵抗をしたけど、だから友達がいないんだよと心臓を言葉で刺され、渋々寮に帰ることにした。
もっとも、女の子を夜道で独り帰らせるのかとオリガ先生が言ったのがそれよりも効いたみたい。私女の子扱いされるの久しぶり。
ふたり夜道を歩いていると、ふと思い出したことがあった。
「先輩ってぶっ壊すのが性癖なんですよね」
「誤解を招く表現は避けてほしい」
君はライザと似た匂いがするといって訝しまれる……。えぇ、アレと一緒かぁ。将来の酒癖が心配。
「……まあ、そうだな。そういうことにしておいた方が、都合が良かったんだ」
「なんで人から避けられるような道を選んだんですか?」
「他の誰にも背負わせないためだ」
はっきりと、その言葉だけは、何の淀みもなくはっきりとそう言った先輩。
私はもしかしてと思って、聞いてみた。
「アレンの為ですか?」
カナン先輩は何も答えなかった。けれど、彼の真顔の種類を少しだけわかるようになってきた私には、その答えが明白だった。
だから、彼がなにも言わないまでも、私は口を開く。
「──ありがとう、ございます」
立ち止まって、先輩に向けてお辞儀した。
アレンから聞いていた話では、降神本家も折紙分家も、子どもたちの自由意思を踏みにじっている。今日を通してみた降神カナンが本当なのならば、彼はきっと、弟に業を背負わせないように、立ち続けているのだ。
本当の事情なんて知らない。それでも、結果としてそうならば。私は感謝を伝えたかった。
私の好きな人を、今まで守ってくれて、ありがとうございます。
──これからは私も手伝います。そう、気持ちを込める。
「さあ、何のことだかわからないな」
それを聞いて、先輩はクールぶっている割にはぐらかすのが下手くそだなと思った。だって、真顔なのに赤くなった耳は、弟そっくりだ。
寮が遠巻きに見えてくるとカナン先輩は私の肩をつついた。
「やっぱりライザに見つかりたくない。裏口から入るから、先に帰っていてくれないか」
「わかりました。その、諸々のことまた相談したいです」
「ああ。かまわない」
「それを、みんなにも」
「みんな?」
「はい。私、ここまで来たのはみんなのおかげなんです。だから、何も隠し事したくないです……って言ってもダメなら諦めます……」
カナン先輩は少しだけ悩んだ。それからいつもの静かな口調で伝える。
「当事者でない者を巻き込むということは、相応の責任を負うということだ。君は守りたいものを、ちゃんと理解しているか」
あの鐘が私にとって何だったのか。それにはもう答えが出ている。
「はい。私は、何を守るべきか、もうちゃんと腹に収めました」
カナン先輩はこくりと頷く。
「わかった。ならいいよ。ただし、あんまり大事にはされないようにね。ライザは知っている側だから問題ないけど、それ以外の人がどう受け止めるかはそれぞれだ──特に異世界の脅威については」
「既に十三獣王とは出会い済みです。みんななら、きっとだいじょぶです!」
肩を竦めたカナン先輩。そんなコミカルな動き出来たんだ……。
そして私は先輩と別れ、覚悟を決めて寮に向かう。
もう後戻りはできない。
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