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122 魔王

「じゃあ、本題に移ろうか」


 カナン先輩は一旦手を止める。


「まずカナン。お前、何と契約をした」

「それは言えない。そういう契約だ」


 急に物々しい雰囲気に包まれ、私はオレンジジュースをすするしかできない。


「それが答えみたいなものだな。じゃあ『あちら側』の事情については私より知っていることも多いだろ。私はほとんど知らないんだ。──渡ったのか?」

「渡ってない。特異点の開閉権限は依然無い」

「では情報は? 開示できることはあるか」

「他の宇宙は確実に存在する。それだけだ。《魔鍵》については訊かれても答えられない。僕も知らないんだ」

「はは。まだ私が《魔鍵》を持っているなんて一言も言ってないのにね」

「行方は女から聞いた」

「養護教諭さん?」

「いや、養護教諭さんは多分()()()()()()()で、支配側じゃない」

「ではお前が契約しているのは『支配側』で、それは女ということか」

「少し違う。僕は女が飼っている悪魔と契約している。そのものについては公表が出来ないということ。女を端的に言えば、魔王だ」


 わけのわからない会話が続いた。でもなんとなくわかるのは、特異点ゲートの向こう側の話をしているということ。特異点ゲートの向こう側の世界に降神カナンが契約する「何か」が居て、それは女性──魔王が飼っているもの。


 魔王、か。


 いまいち輪郭が捉えられない。でもそれを悟ったかのように降神カナンは言った。


「浅倉シオン。君はその女を右眼で視たはずだ。君が使ったあの戒律を破する力は、その女のものなのだから」


 右眼でみた女の子。今ではあんまり覚えていないけど──。


「でも……、なにか、助けを求めているような声を聞きました」

「助け? あの女が?」

「はい。──感じたんです。痛烈な、孤独を」


 降神オリガはふむと考えこむ。


「あの力はどうやって使った?」

「えっと、ミーちゃん……千里行黒龍(ブラックミザリー)が試練だと言って私にまつわる全ての能力をはく奪したんです。それで、『窓』をやるって言われて──あの、『窓』って何なんですか?」


 降神カナンと降神オリガは示し合わせたように顔を見合わせた。そしてオリガ先生は答える。


「向こう側を覗く力だよ。特異点ゲートの向こう側を」

特異点ゲートの向こう──」


 降神カナンは付け足した。


「正式名称はない。ただ、歴代の剣聖パラディンはそれをそう呼んだ。漆黒の炎が瞳を焼くとき、かの者は窓を覗く──」


 歴代の──。


「ここにきて候補が増えるとは思わなかったな」


 オリガ先生は呟く。私は二人に見つめられる。


「君には剣聖パラディンの正統継承権がある。あの瞬間から、君は剣聖パラディン候補者だ」

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