121 セーフハウス
目の前でウォッカをロックで飲む降神オリガ。その隣で水を飲む降神カナン。それを見守りながらオレンジジュースをちゅぴちゅぴ飲む私。
あれ、何だこれ。なんだこのメンツは……。
「キョロキョロしても敵なんかいやしないよ。ヴァチカンの特級防護結界が三重にかけられてるんだ」
「で、でも普通のご飯屋さんに見えますよ……?」
あの戦いのあと、養護教諭さんが全員をせっせと治療してくれて、欠員なく戦いは終幕した。本当の実力で言えば、どちらが強いのかなんて一目瞭然だけど、この緊急事態に際してはどうでもいいみたいで、オリガ先生は形式上あれをやっただけと答えた。本当は何も考えていなかったのではと若干疑う。
そして治療を終えた私は寮でシャワーを浴びた後、廊下で待っていた降神カナン先輩に連れられて、イーストパークまで向かう。そして入ったこともない裏路地を進むと、そこには不思議な雰囲気の扉があった。
「この先はヴァチカンに跳ぶ。帰りの吐き気は諦めてくれ」
そう言われ、ようやくそれが移動魔剣によって開錠する扉だと気が付く。
入ると先にオリガ先生が居て、ふたりでその席に向かった。
──で、現在。
私の前にはオムライスがある。めっちゃ美味しいけど、普通のご飯屋さんにしか見えない。ちなみにカナン先輩はむっちゃ綺麗な手つきでステーキ切ってる。
「普通に見えるようにカモフラってるだけさ。世界中から跳べる、要人専用のセーフハウスなんだ。ほら、向こうの席にはアメリカの大統領」
私は怖すぎて振り向けなかった。こわい。ぷるぷる。
「なんてね冗談。アメリカ大統領はもっと安全なとこ。ロスのこと考えたら飯食ってる場合じゃないしね。でもまあ、そのレベルの場所だから、たまに私が密談とかで使うんだよ」
「あれ、もしかしてなんですけど、カナン先輩が食堂でご飯食べてないときって──」
「ああ。大抵ここにいる」
「先輩、ご飯当番二週間分溜まってますよ」
「勘弁してほしい」
どんな会話だとオリガ先生が突っ込む。たしかに、噂でしか語られてこなかった降神カナンとこうして普通に食事しているのは不思議だ。
「……ライザの奴がやたらと酒を飲ませてこようとするんだ。僕は飲めないのに──」
ああ……。アルハラ常習犯から逃げてきたんだ……。七年も一緒に居たら処世術的にこうなるのもなんか納得してしまう。
「カナンって喋ってみると案外普通でしょ」
「ですね。強いのは強いです。圧倒的でした。でも、届かないわけじゃないきがします」
「あはははは。それをカナンの前で言っちゃうところが浅倉だよね」
真顔なのに、少しだけむすっとした顔をするカナン先輩。こう見ると、やっぱしアレンとそっくりだ。
「そう言えば他の学生たちは今何してる?」
「あ。七年生が後輩との親睦を深めるべきだって言って、今回の訓練の打ち上げをしてます」
「……ライザ主催だろ」
「……両手に日本酒持ってました」
話の切れ間に、ちょうどオリガ先生が頼んでいたガパオライスが届いた。彼女はそれを口に運びながら話を進めた。
「じゃあ、本題に移ろうか」
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