閑話休題05②
■SIDE:乙女カルラ
掃除を終えると浅倉さんが自分の取っておいたスーパーカップを持ってきてくれた。
「私が人にアイスをあげるのは珍しいことなんだよー!」
ニコニコしながら浅倉さんがそう言う。
初めて会った時なんて催眠魔剣で刺したし、そのあとの定期考査でも僕は彼女を攻撃したり、大義のためとはいえ殺そうともした。
それなのに彼女はもうすっかり許したようで、それどころか初めから怒ってないかのようだった。
「君は気の良い奴だな」
「よく言われるよ」
僕はつい笑ってしまう。
こんなお人好しだからこそ、みんなを守る剣聖を本気で目指せるんだろうな。
浅倉さんはアイスをもぐもぐ食べながら話を進めた。
「水着回の話なんだけどさ」
「そっから聞いてたの!?」
というか君も水着回の話するのかよ。
「私もね、みんなと海行きたかったんだ」
「海か。僕はそもそも行ったことがないな」
「え、同じだ。私もなんだ。友達が居なくて。へへ」
言えない。家の庭にプールがあって友達とはそこで泳げたからわざわざ海に行く必要もなかったなんてこの流れでは絶対言えない……!!!
「でね、みんなとせっかく仲良くなったから、海とか、プールでもいいの。行きたいなって」
「うん。良いと思う。曽根とか喜ぶと思うよ」
嬉しいと彼女は笑った。
「……幼女学長と話しててね、文化祭の打ち上げで温水プールに行くのはどうかって。先生がお金出してくれるらしくて」
「なるほど。いかにも堅物そうな僕がそれに了承するか探りを入れてたんだな?」
「やっぱりカルラは賢いね」
僕はアイスが少し溶けていい頃合になったので食べ始める。
「僕にとって人生は、ただレールの上を歩むだけの惰性だった」
浅倉さんは木のスプーンを唇でくわえてこちらを見た。手の熱でアイスを溶かそうとしている。
「それでも、君と出会った。自分の手で征きたい道を斬り拓く君と出会って、僕はそのレールの行き先を決めていいんだと知った」
「そっか」
「これでも僕は君に感謝しているんだ。そのお礼になるなら、なんでも手伝うよ」
「ふふ。なんでもとか言わないほーがいいよっ」
ニタニタと、やはりいたずらっ子のように笑う。その笑顔はとても無邪気で可愛らしい。
「そんな可愛らしい顔を僕に向けていたら、折紙アレンが嫉妬するんじゃないか?」
「なななななななななななななななな」
壊れちゃった。
「ななな、なんでアレンの名前が!?」
「いや、君が折紙を好きで、折紙が君を好きなんて公然の秘密じゃないか」
「やややややややややややややややや」
ぽんこつだなぁ。
「やっぱし、好かれてる……かなぁ?」
「胸張りなよ。失恋したら慰めにご飯でも奢ってあげるからさ」
「ふ、ふん。失恋なんてしないもんね! それに私が可愛いかは別として、緩んだ顔を見せるのは気を許してる相手だけだよ」
ちょっときゅんとするじゃないか。
まったくまったく。
「というか、そっちこそカザネとはどうなのよ。花火から進展ないの?」
「なななななななななななななななな」
「私たちって似てるよね……」
「なんで燐燈さんの名前がここででてくるんだ!!!」
「だって花火大会で、ふたりで線香花火してたじゃん。あれはもう真面目メガネくんとオタクに優しいギャルの共演だったね」
オタ……ん? なんだそれ。というか僕はメガネじゃないぞ。
「ま、まあ、その。確かに燐燈さんはとても話しやすいし……。それに、笑った時の犬歯がかわいくて……」
「へぇ〜ふぅ〜ん」
むっかつくなぁ!
「す、好きだよ。認めるよ」
「ひゅ〜!!!!!!!」
それは本心だ。曽根にも一回いじられたけど、燐燈さんといると、繕わなくていい気がするんだ。
「おモテになるのに罪な男だねぇ」
「君に言われたくないが????」
まったく……どの口が……。
「でもカザネほんといい子だから幸せになって欲しいなぁ。結婚式は呼んでね」
「早いし重いよ。ファストフードかよ。大体、燐燈さんの気持ちを尊重──」
「誰か呼んだ〜?」
ギクッ。
「あ、カザネ〜。頭濡れたままだよ?」
タオルを首にかけたお風呂上がりのギャル、燐燈カザネ。
「そーそー! あとで東雲ちゃんがお手入れしながら乾かしてくれるって〜。なんか最近人の髪いじるのにハマってるらしい」
僕はお風呂上がりの燐燈さんを見るまいと目をそらす。だってなんかしらの罪に問われそうだから。
「あれー? カルラくん目逸らした。どしたん?」
「男の子には男の子の色々があるのよ」
浅倉さん??????
「ほえー。大変だねぇ」
「ア、ワタシ、ヨウジガアッタンダッタ」
おい、浅倉シオン。下手か。
「じゃ、あとはおふたりで〜」
そう言って浅倉さんはどっかへ行ってしまう。ううう! ふたりきりにするなんてちきしょうありがとう。
燐燈さんはぽふんとソファに座る。広い談話室の中で、なんで僕の隣なんですかね???
「あ、ごめ。暑苦しかった?」
「いや、だ、大丈夫だけど」
あ、これはあれだ。欲しいんだ。さっきからめっちゃチラチラアイス見てる。
「えっと、食べる?」
「いーの!?」
「うん。スプーン持ってく──」
「あーーーーー」
ん?
ふっと隣を見ると、あーーっと口を開けて待つ燐燈さん。ボシュウと音がした気がしたが、それは僕の顔面から蒸気が出た音だ。
「あーーーーーー」
僕はアイスをすくって恐る恐る彼女の口に入れる。舌と唇がアイスを絡めとる。その熱で、アイスはとろっと溶けてしまった。
「ん〜! あまーい!!」
ほっぺに手を当てる燐燈さん。顔面に手をやる僕。
「ありがとね!」
「こちらこそ……」
「???」
そして、東雲さんが来るまでの間、僕と燐燈さんは少し駄弁った。こういう時間が続けばいいなと、そう思えることは、きっと良い成長なのだなと僕は感じた。
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