閑話休題05①
■SIDE:乙女カルラ
「なあ、なんでオレたちは水着を見ることができないんだ?」
お風呂上がりに寮の談話室でぼうっとしていると、僕に向かって姫野がそんなことを呟いた。
彼は家柄的な意味で幼なじみだ。幼少期から東雲スズカの侍従をしていた彼と、四家の間を取り持ってきた僕。自然と一緒にいる時間は増えたが、仲良しという程でも無い。
でも、水着の話を持ちかけてきたということは、少なくとも嫌いでは無いのだろう。定期考査では浅倉シオンを狙う側、守る側とに分かれて戦いもしたが、彼はそもそもそう深く考える質でもない。
「詳しく聞こうか」
「お前って案外ノリいいのな」
言うな、そんなこと。
「いやー、夏休みが水着回なしに終わっちまったなーって」
「水着回って何だ?」
「え、ほら。アニメとかでさ、なんかキャラが水着になる回だよ」
「すまない、僕は家の方針でサブカルチャーは嗜んで来なかったんだ」
「あー。そういやそうだった。え、アニメとか漫画は?」
「うん、それをサブカルチャーって言うんだよ」
「はえー、まじかよ。牧野が知ったら卒倒するぜ」
牧野コウタは確か四六時中スマホで映画を見ている人か。僕もまあ興味が無いこともないが、それよりも御前会議や日本の未来、ひいては世界の命運について考えなければならない。
「お前は乳と尻どっち派?」
「お前話聞いてたか?????」
あ、お前とか言っちゃったわ。あんまりそう言う言葉遣いしないのに。でもなんか姫野に関してはもうどうでもいい気がした。姫野だし。
「オレはやっぱ乳だな。それもバインバインのグラマラスボディ……」
僕はその瞬間、何らかの寒気を感じた。なんだ? まだ秋になったばかり、残暑も残るのに。この異様な寒気はなんだ?
「んでお前は〜?」
「僕は……うーん。太もも……かな」
「ドスケベじゃねーか」
なんでだよ!!!!!!!
「大体二択なのに他の選択肢で答えるヤツがあるか。それを抜きにしてもお前はスケベだな。おーいみんなー! 乙女カルラはスケベだぞー!」
やめろバカ。
「おい一年坊主。スケベな話か、混ぜろや」
やってきたのは八神ライザ。今のセリフ完全に女性のセリフじゃないんだよな……。
「ライザさんスケベもいけるんすね!」
「そりゃもう。ベースケよ!」
もうヤダこの人たち。
これでも東雲家の侍従家である姫野家の子息、乙女家の子息、四名家の下支えたる八神家の息女が揃っているのだから不思議だ。
メンバー的には、日本の今後について話し合われていてもおかしくない。
「ライザさんは乳すか?」
「はは。お前はまだまだ子どもだね。女の体ってのぁ尻で決まんのよ」
あ〜、最低の会話だ〜!
僕が頑張らないと日本が終わる……。
「カルラは太ももらしいっすよ」
「は? ドスケベがよ」
だからなんでだよ!!
「こんばんは〜。誰か呼びました?」
そこにやってくるお風呂上がりの浅倉シオン。シルク生地っぽい化繊のショートパンツ。太もも。僕は目をそらす。
「あ、太ももの話はしてたけど君のことでは無いよ。自覚あるんだ」
「ライザ先輩筋肉あるのに太もも太くないの羨ましいです……」
私なんてこんなに〜、と言いながら彼女は足を持ち上げて見せてくる。八神ライザが太ももをむにむにつまむ。
「わたしはこのむちむちが好きだけどね〜」
「そんな〜」
「あの、ライザさん。百合すんのやめてやってください。刺激強くてカルラが昇天しちゃうから」
しねーわ!!!!!
ちょっと眼福とかは思ったけど!!
「カルラなら見られてもいーもん。姫野みたいにスケベじゃないし」
「はっ、あのな、カルラは乳か尻かで言ったら太──」
姫野が僕の性癖を暴露しようとしたその瞬間──SHINING!!!
姫野が座っていた椅子の足が切り刻まれる。そして、彼の後ろに阿修羅の形相で立っていたのは東雲スズカ。
「へぇ、大きな胸が好きなのね。あなた」
あ、姫野死んだわ。
「ち、違うんだよこれは! 乳にも千差万別あってだな! スズカは平らでも虚無でも特別だから──」
なんであいつはあんなに綺麗に墓穴を掘れるんだ。
「あああああああ!!!!!!」
そして叫びながら逃げてゆく姫野ユウリ。抜刀姿勢で追いかける東雲スズカ。野次馬根性八神ライザ。
残された僕と浅倉さんは壊れた椅子を片付けながらくすくすと笑った。
「そういえば、カルラは太もも派なの?」
「ぶっ」
聞いてたのか!!!
「見せたげよっか」
えっ?
「なーんてね!」
ぷぷぷーといたずら小僧のように笑って箒を取りに行く浅倉シオン。僕は自分が耳まで熱くなっているのを感じる。
浅倉シオン……危険な女だ……。
僕は色んな意味で、彼女の脅威度を上げた。あと変な扉が開きそうになった。
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