120 VS降神カナン③
「──たかが授業じゃねぇよ。こっちは命賭けてんだッ!! 全力で来いよこのボケナスがッ!!!!」
ふしゅーと口の端から息が漏れる。私は、震える手で、Black Miseryを握り、構える。ジンジンと体が熱い。
そして何より、眼が燃えるように熱い。
「──浅倉シオン、その眼は」
「その眼……なんなのなの!?」
右眼が疼く。高熱を帯びる。龍王に奪われたはずの魔眼が再燃するように、否、別の炎がもたらされた様に、重なる。世界は漆黒の炎に燃える。
視える。
右眼が、何かを映している。
どこか、異国の土地。少女が流れ星を見ている。その流れ星が少女と出会って、分かれて。世界が崩壊して──そして少女は永遠を生きた。
右眼の「窓」で視たその誰かの人生は、私にひとつの気付きを与えた。
不刃流という力の本当の根源。それを今私は──。
「《潮汐》」
ふと呟いた瞬間、鐘楼が粉々に砕け散り、その残骸は地に押し付けられる。超重力下でさらに砕け、灰燼に帰す。
あ、ヤバい。止まんない。右眼から、出たがってる。こっちを覗いて……。
「──ロールバック&ストップなの」
ROOOOOOOOOOOOOP。
その仙石ネムリの言葉によって、鐘楼は崩壊した形から復元され元に戻り、私は完全に身体を停止させられた。
「魔王、か──」
表情を崩さなかった降神カナンが動揺した。今私は、一体何をしたんだ。
「これは想定外なの」
「違う。オリガの想定内だ」
考えるように口元を隠す降神カナン。
「──違う。もっと他の何かが、浅倉シオンを『窓』にした」
「巻き戻すなの?」
「何が起こるかわからない。この先はもう混沌だ」
そう言って、また冷静さを取り戻した無表情の降神カナンは動けない私の元に来た。
「試験が終わったら会う約束をしたな。あれは嘘だ」
「……」
「だが、次は本当の約束をしよう。これが終わったら会おう」
そう言って降神カナンは歩き去る。鐘楼には見向きもせずに。そして遠くから大きな聞き馴染みのある声がした。
「カナン! 下級生たちに勝ちを譲っていいのかよ~」
降神カナンは答えない。
「八神ライザだけは眠らなかったなのね」
「いや、裏技使ったんだ。で、どーする? わたしをぶち殺す?」
「んーん。ネムはもう眠いなの活動限界なの」
「ぶっちゃけわたしもオリガ派でさ。人手不足なもんで、昇級させてもいいんじゃねって思うのよ。そしたらもっとしごく口実にもなるし」
カナンは校舎に背を預ける八神ライザの隣を過ぎる時に「任せる」とだけ呟いた。
「そ。んじゃ、七年生の負けっつーことで、倒れるふりするから殴って」
仙石ネムリがぺちっと八神ライザの頬をたたく。やーんといって八神ライザは転がる。そこへやってくる降神オリガ。
「最後は八百長かよ。まあいいか。パズルのピースがそろい始めたしな。浅倉シオン。あとでカナンと飯にしよう。で、勝負は下級生の勝ち!」
パンパンっとオリガ先生が手を叩くと、会場中にブザーが鳴り響いた。
これにて、七年生VS下級生の模擬戦は終了。結果は八百長の末、下級生の勝利として、閉幕する。
ネムリ先輩が眠ったことで呪縛が解除された私は、右眼に手をやった。これは一体なんなのか、だけど、確かに何かを掴んだ気がする。
『「窓」を覗けた様じゃな』
「ミーちゃんこれって──」
『いずれわかる。その覚悟だけしておけ』
そして私は、力尽きて、眠った。
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