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119 VS降神カナン②

 鐘はつかれたが、ならない。まるで空気がそこだけなくなり、振動することを否定されたかのように。


 そこに気怠そうに歩いてきたのは、仙石ネムリ。元フェニックス五年生。乙女カルラが最強と呼んだ女だ。


「ネムリ、寝ていなきゃ駄目だろう」

「眠るのは代わりに他の七年生にお願いしたの。優しい子守唄で」


 ふと思えば、外の喧騒が止んでいる。私は耳を疑った。だが、もう鼓膜の破れは回復させられている。この人は本当に全員黙らせたのか?


「僕が十三獣王キングスとの争いを避けているのは知っているだろう、ネムリ」

「だね。でもセイレちゃんの完全正統詠唱が奉納されたから、ネムとしても眠りこけている場合じゃないの」


 その刹那──ただの穏やかな会話をぶっちぎるように、一瞬で数十メートルをデュランダルがぶち飛んだ。それは仙石ネムリの頬をバッサリと切り裂いたが、まるで怪我が逆再生されるように修復されてゆく。


 私は震えて動けなかった。情けないが、遠くを見れば気を取り戻した明滅レオン先輩も零戦マリサ先輩も同様、それを見ているしかなかった。


「──UNIVERSE42の《ロールバック》か」

「水瓶座は元々『水に流すこと』が得意なの。時間の巻き戻し程度、逆上がりより簡単なの」


 ロールバック? 時間の巻き戻し──それに水瓶座って言った……?


「七年生を沈黙させるためだけに正統詠唱か。たかが授業で──」

「それだけあの子たちは勝ちたいってことなの。天才にはわかんないの」


 降神カナンはしばし瞑目した。


 これは物理的な戦闘ではないが、明らかに戦闘だ。ルーズベルトの棍棒外交さながらの、牽制合戦。


「僕にも勝てない相手はいる。その場を弁えているだけだ」

「ネムはどんなことでも全力でやれるのが下級生の良い所だと思うの」

「頑張れる子らだから昇級させろと? 命の責任はもてない」


 今度はネムリ先輩が黙った。カナン先輩の言うことにも理があると認めたのだ。


 確かにただ七年生に勝っただけで即現場に出せるとは思えない。それも、仕組みはわからないが最強と言われ、実際に次期剣聖(パラディン)と対等に接する最終兵器を使って得た勝利では説得力を欠く。


 だけど、これだけは言っておかなきゃならない。


「カナン先輩」


 ふっと彼は私に視線を揺らがした。


「私たちは、覚悟、してます。死ぬのが怖くて、剣聖パラディンなんて目指せるか──」


 Black Miseryを携え、膝をつき、重い頭を持ち上げ、ねめつける。立ち上がる。全身全霊を腹にこめて、叫ぶ。


「──たかが授業じゃねぇよ。こっちは(タマ)賭けてんだッ!! 全力で来いよこのボケナスがッ!!!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] おいおいおい最後の啖呵(;'∀') 死んじゃったら中身が顕現しちまうんじゃ(;'∀')
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