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116 南方戦線大乱戦②

■SIDE:UNKNOWN


 折紙アレンは校舎五階から南部の支援に向かった。上空から見渡す方が余程戦況に有利に働くと考えたのだ。


 しかし、その途中で養護教諭と降神オリガの会話を聞いてしまった。


 魔鍵? 世界を渡る? 探検家シーカー


 それに彼は多元宇宙論(マルチバース)という言葉にも関心を寄せた。

 その理論が折紙アレンの脳で理解できるなどとは、彼自身思っていなかったが、それでも、降神マユラを救えるかもしれないという光明が彼を動かした。


 そして現在──。


 折紙アレンは八十八式擬聖剣(アンエクスカリバー)を用いて降神オリガのエクスカリバーと対等に打ち合っていた。


「私はお前にそんな軟弱な技、教えた覚えないなァ!!」


 空気をも切り裂く斬撃が周囲の生徒を吹き飛ばしながら折紙アレンに向かう。


「軟弱なのは良いことだ。それは、成長の余地があるということだから! そしてそれは、アンタからは決して学べない剣だッ!」


 アンエクスカリバーは文字通り偽物の聖剣だ。光子を凝集させ、光の柱を形成する。その過程自体は本物の聖剣が行うものと相違ない。だが、エクスカリバーに斬れないものはない。その特性だけは真似ることができない。


 折紙アレンの光の剣は一瞬で粉々に砕け、彼はその反動で戦場の地面に叩きのめされた。


「教師が学生に負けてちゃ世話ないからな。申し訳ないけど、そこで伸びといて」

「まて……オリガ──」

「あと言っとくけど、今は授業の最中だから。忘れないように」


 そう言って降神オリガは折紙アレンを置いて去った。


 折紙アレンの中には、ただ降神マユラへの思いと、その救出への一縷の望みだけが緩やかに滞留していた。

 そして彼は戦場の混沌の中、深く意識を混濁の中に沈めてゆく。


         ***


■SIDE:UNKNOWN


 一言で表せば、混沌だ。


 曽根セイレは自分の背より巨大な手裏剣──もとい背裏剣「風の祭り」を振り回しながら戦況をそう読んだ。


 今この南部戦線にはおよそすべての学生が集結している。そしてそれぞれが思い思いに七年生を討伐する為動く。


 だが、作戦本部の指示はもはや通っていない。今、鐘楼を守りに動いているのは明滅レオン、零戦マリサ、浅倉シオンだけだ。


 足りるのか? 曽根は考えた。


 今闘っているのは元フェニックス七年生、荒川ハヤテ。

 魔剣師としては至極真っ当な正統剣術を用いる。派手な技がない分、他に埋もれるが、一般の剣士としてその技巧を受けるには、流麗剣術の神楽リオンでさえいっぱいいっぱいだ。


 現状、七年生に押しつぶされてはいないが停滞している局面で、降神カナンだけが鐘楼に直進していることを鑑みれば、こちらの負けは濃い。


 曽根は思考を巡らせる。今自分がここを離れれば神楽リオン先輩が破られる。だからと言って、最強と呼ばれる降神カナンをそのまま行かせて良いのか?


 ──マリサ先輩は当然強い。模擬学生(イミテーション)がいた中でも六年生の中ではぶっちぎりの強さを誇った。明滅レオン先輩には寝坊で不戦敗だったが、試合に出ていれば勝っていた。


 明滅レオン先輩はかなりの武闘派だが、脳筋なところがある。でも浅倉シオンと統率が取れるのならば最強にも並ぶかもしれない──。


 しかし、それが希望的観測に過ぎないことは曽根自身理解している。どうしたって、あの最強者に勝つビジョンが浮かばな──。


 最強?


 曽根セイレは忘れていた。他者から最強者と呼ばれることがないのにも関わらず、最強であり続ける女のことを。


 普段は眠りこけているが、その本性が、相当に恐ろしいものであるということを、曽根セイレは思い出した。


 元フェニックス五年生、仙石ネムリ。


 その女は、誰よりも強い。それは、乙女カルラの戯言でもなんでもない。彼は浅倉シオンに真実を伝えていた。


 眠れる獅子という言葉を、嫌でも思い出してしまう。


 ただ、曽根は迷った。彼女に頼るのが今であって良いのかと。もっと世界の危機を救うような、そんな場面でなくてはならないのでないかと。


 だが、結論を出すよりも先に曽根の脚は動いた。


「リオンさん! 任せます!」

「行けッ!!!!」


         ***


 何が、との説明もなしに曽根セイレからのバトンと信頼を受け取った神楽リオン。


 それに目が血走る荒川ハヤテ。


「なめられたもんだなァァァ。三年のガキひとりたァァァ」


 争いの充足に溺れる荒川ハヤテは叫ぶ。

 神楽リオンは、相手が魔力無し(プレーン)だからと区別する敵でなくて良かったと思った。


差別主義者(クソ野郎)なら、殺してたからな」


 血に飢えたふたりの剣士は、派手な魔剣技アーツなど関係ない試合ができると猛り、柄をぐっと握りしめた。


         ***


 校舎の下。木陰で眠る仙石ネムリ。乙女カルラから、彼女を置いた場所については連絡を受けていた。


 ──人を起こすのは得意なんだ。


 毎朝の零戦マリサのことを思い、震えながら微笑む。この震えは、獅子を起こすことへの恐怖なのだろうか。


 今はどうでもいい。武者震いということにしておけ!


 曽根セイレはそう自分の頬をぱんぱんと叩いて、仙石ネムリの元へ往く。


 彼女の起こし方は八神ライザですら知らない。


 御前会議の執行人である、曽根家の息女、曽根セイレだけが知ることだ。


 その名はセイレーンから取られたというのも皮肉な話だが──。


 そんなジョークも、そのうち笑えなくなる。


 最敬礼をする曾根セイレ。


「掛けまくも畏き瀬織津大神。うつせ世の渡りに禊ぎ祓へ給ひし時に生り坐せる祓戸の大神等諸々の禍ごと罪穢有らむをば祓へ給ひ清め給へと白すことを聞こし召せと恐み恐みも白す──」


 そして目覚める。目が開く。


 身体に水瓶座を宿す、その人が。

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[気になる点] >あと言っとくけど、今は授業の最中だから。忘れないように 先生と呼びな、って事か(ぇ [一言] まさかのッッッッ!!!!(;゜Д゜) そしてでもってまさかの祝詞だと(;゜Д゜)
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