115 南方戦線大乱戦①
私は支援部隊が到着して真っ先にナズナを大声で呼んだ。その叫びは、察したライザ先輩の魔剣豪雨によってかき消された。
だが、綾織ナズナという女を見くびってはならない。彼女は自分の力の活かし方を最も理解している。
「ははー! シオンちゃんにナズナちゃんでダブルス破戒の時雨ってわけかァ! でもね、そう簡単に双子ごっこなんて──」
私はレーヴァテインで八神ライザの重い斬撃を受け止める。今にも骨が砕け散りそうだ。スパーリングの時とは格が違う。
「でもね、ほんとに、あの子を見くびらないで、先輩。私との秘密特訓、何ヶ月やってると思ってます?」
「──え?」
八神ライザの驚く表情って、私大好きなんだよね……!
そして私は破戒の時雨を全て解除する。
「なに? そんなの馬鹿げ──」
「てないっ! 敵は上ですよ!」
私を幻影への変身でコピーした白いガントレットを持ち、青い蒼炎を湛えるレーヴァテインを八神ライザに振り下ろすその子こそ、私の親友、綾織ナズナだ。
「くらぁえええああああああ!!!」
──GRAAAAAAAAASH!!!!!
八神ライザは千本の魔剣を盾にして受け止める。
「ナズナちゃん。わたしが魔剣を何本も扱うって忘れた? それは剣にもなるし盾にもなる。単純な方法じゃ通らない」
だが、綾織ナズナこそそれを言いたいはずだ。なぜって、ライザ先輩は確実に、綾織ナズナの本当の恐ろしさを、知らないからだ。この数ヶ月、磨きに磨いたその技は、理論上では七年生をも超える。
だから、ぶちかませ。
「形態移行──利己的な遺伝子、多重積載。第一段階、浅倉シオン。第二段階、八神ライザ──」
全身に白亜のアンチガントレットをフルアームドし、甲冑に包まれた白いサムライのようなナズナは、背部に蒼炎を撒き散らす複数のアンチレーヴァテインを光背のように背中に回転させている。
「これは……冗談きついね」
「シオン。あとは任せて。鐘楼に向かったカナン先輩を!」
「がってん! でもレーヴァテインは使いすぎないようにね!」
「あいあい!」
私は校舎に向けて走り出す。ライザ先輩が呟いた、不穏極まりない言葉に背を震わせながら。
「──三万本、やってみようか」
だが私にはもう、ナズナを信じて走るしか無かった。
***
■SIDE:綾織ナズナ
「第三段階、藤原イズミ」
ドレッドノートカルテットを白亜の甲冑に巡らせる。
「第四段階、折紙アレン」
全身の強化。速度を上げ、耐久力をあげる。
「第五段階、妻鹿モリコ。第六段階、明滅レオン。第七段階、牧野コウタッ」
白亜の甲冑に次々とオート追跡ミサイル、グレネードランチャー、それらが現れて組み合わさってゆく。
「──第八段階、乙女カルラ」
神速を身体に宿す。
「第九段階、東雲スズカッ!!!」
そして最後は剣術を。
イングランドで学んだその剣術を見せてよ。スズカちゃん。
「いいねぇ──。わたし、そういう盛りまくったロボットとか大好きなんだよねぇ。人が乗って操縦するのとかさぁ。特にぶっ壊れる瞬間がァ、最っ高にイイんだよナァあああああ!!!!!!」
八神ライザは両腕の長い爪を深くお腹に突き刺した。
「何を──」
「──八神流操剣術。三万桜」
──PAN。
桜が、綺麗な桜が舞った。
あたしは、一瞬何が起こったのかが分からなかった。
でも、一瞬だったのに、次の瞬間には、事細かに何が起きたのかがわかった。
たった一瞬で、言葉通り三万本の魔剣が、この世界に召喚された。その圧倒的なまでの質量に、脳がバグを起こした。
だから、一瞬に感じたんだ。
三万本の魔剣が、あたしが力を借りた能力たちを、全て丁寧に相殺している。
それはもう、魔剣技でもなんでもない。質量による蹂躙だった。だが精密でもあった。
ドレッドノート・カルテットはシールドの最小単位ユニットの隙間を切り裂かれ、アンチレーヴァテインは溶かしきれない物量で全て破壊。重火器類は一瞬で消し飛ばされ、それを神速で避けようとすれば魔剣は追いついてくる。重力異常などはなから効かず、白亜の甲冑は一枚一枚丁寧に破壊され、あたしの身体にはもう動けないよう、百以上の魔剣が突き立てられた。唯一残った不刃流の循環でのみ、今あたしは生きている。
その血飛沫が一瞬にして舞ったのをみて、あたしはまるで桜だと思ったんだ。
二万五千本以上出せるんじゃないですか……。
「わたしも驚きだよ。三万本も使えるなんてね。君みたいに強いやつが居なきゃ気づけなかった。ありがとう」
そう言って八神先輩は私の太ももに大きなロングソードを地面ごと貫き突き立てる。
「が、あ、あああああっ!!!!」
「痛いから気絶した方がいい。あとは養護教諭に任せるとしよう」
「ま、って。いか、せな──」
彼女はもう一本、あたしの手の甲に魔剣を突き刺した。その激烈な痛みに耐えきれず、あたしは完全に沈黙する。
「残り何人だ?」
最後に聞いたのはその声だった。
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