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114 見守る女たち

■SIDE:UNKNOWN


 養護教諭はココアのホット缶をふたつ持って窓辺に向かった。第一校舎(ヘックス)の五階。そして、最も熾烈な戦場を見下ろせるその場所に。


「ジブン、コーヒーの方が良かった?」

「いや、ココアも好きだよ」


 降神オリガは肌寒くなってきたので、グレーの重いコートを着ている。対魔仕様であり、内側にはいくつもの魔剣が仕込まれている。


「これってさ、ホンマの国試でやる試験内容やろ?」

「試験官が七年生という点と地理的状況以外はね。ただ、円卓騎士シージ程度ではもうお話にならない。ヴァチカンの手を借りようとも思ってないし」


 目の前で巨大な爆炎が上がった。窓が縁ごと揺れ、隔てるものがあっても顔が熱い。目が溶けそうだと養護教諭は思った。


「ウチではもうあの子らはどうもしたれへんわ。せいぜい生傷ならんようにしたるだけ」

「それでも養護教諭さんがいなければ、彼女達はとっくに肉塊だよ」


 八神ライザが千本の魔剣を次々と、浅倉シオンのレーヴァテインが溶融できる速度を超えた速さで飛ばす。


「こんなガッコで働いとるけどなぁ。ホンマは誰にも怪我して欲しくないねん。戦争とかホンマ……」

「でも、もう賽は投げられたよ」


 乙女カルラは背に守る校舎と仙石ネムリを守りながら、荒川ハヤテと切り結ぶ。降神オリガは中々やるなと思った。純情女王(スピカ)が授けたのは神速だ。


「そうやな……。つべこべゆーても、向こうさんは止まってくれるワケちゃうもんな。ただな、絶対に扱いを間違ったらアカンで」


 養護教諭はポケットから「銀色の鍵」を取り出した。それはダマスカス鋼のような柄のもので、手渡された降神オリガはその見た目と相反する異常な重さに真実味を感じた。


「ウチの能力(アーツ)魔剣技アーツやないってことはもう知ってるやろうけど、どこから来たかは言うてなかったな」

「──魔剣技アーツじゃないってのも、イマイチよく分かってないけどね」


 外では新羅セツナの多段炸裂空裂傷節をカルテットを更にカルテット展開した藤原イズミが受け止める。


「あの子ら、ホンマおもろいな。戦いの中でも成長しとるわ」

「それで、この鍵は?」


 養護教諭はその銀の鍵を指して言った。


「端的に言うたらな、それはこの世界のモンちゃうねん」

多元宇宙論(マルチバース)でも説くつもりか?」


 冗談めかして言った降神オリガはそれに対して頷かれるとは思っていなかった。


「まあそんな難しいこと言うつもりじゃないねん。要は特異点ゲートの向こう側に何があんねんって話」

「それは──隠世かくりよだろ」

「隠世ってゆわれてそれがどんなもんかパッとわかるか?」

「いや」

「こう言うたらはやい。向こう側にはここに似た別の世界がある」

「じゃあなぜ十三獣王キングスは破格の力を持つ? なぜそこは非対称なんだ」

「そういうもんって言うたらしまいやけど……。強いて言うならこの世界を起点に大断裂を引き起こすためや」

「大断裂……?」

「この辺りのことは自分の目で確かめて欲しい。その《魔鍵(まけん)》はな、世界を渡るためのもんや」


 突飛な話に降神オリガは瞑目した。元々養護教諭からは敵側の有力な情報を受け取る予定だったからだ。だが、手渡されたのは複数ある世界を渡れるという魔鍵──。


 だが、そこでオリガは気がついた。そして、同時にそれに気がついた人間が、そこにいるべきでない人間がそこにいることにも。


「つまり、特異点ゲートの向こう側に渡れるのか?」


 折紙アレンは静かな顔で二人の女性を見つめた。


「アカンやん。学生は授業してへんと。サボりあかんのに〜」


 養護教諭は茶化すが、折紙アレンは真剣に見つめている。


「聞かれたんやったら無理か。せやで。これでマユラちゃんも探せるかもな。でもな、そう単純な話ちゃうねん」


 降神オリガは銀の鍵をポケットにしまう。


「養護教諭さん。アンタは悪魔側なのか?」

「ちゃうわい。でも出身はそっちやねん。医者って言うか、元々『探検家(シーカー)』やってんけどな。まあええわ」


 養護教諭はスっと腕をまくる。


「その不刃流アンワイズの源流も知っとるで。教えたろか?」

「気になるが、今はその鍵を貰おうか」


 戦闘態勢に入り、無詠唱不刃流(アンワイズ)を細胞に展開する折紙アレン。だが、腕まくりをした養護教諭の前に降神オリガが立ちはだかる。


「養護教諭さんは武闘派じゃない。民間人を攻撃するのはお前とて嫌だろ、アレン」


 折紙アレンはそうだなと端的に答え、降神オリガが次に何をしようとしているのかを理解した。


 窓の外、階下には続々と下級生が増援に集まっている。


 降神オリガは──窓に突進して突き破り、第一校舎ヘックスの五階から戦場に向かって飛び降りた。折紙アレンもそれをすかさず追いかける。


 藤原イズミのシールドを土台に着地した降神オリガは八重歯で腕を切り裂いて詠唱する。


「Summon──EXcaliburッ!!」


 ──GRAAAAAAAAAASH!!!!


 降ってきながら八十八式(アンエクスカリバー)を発動する折紙アレン。そして、それを迎え討つ本物の聖剣エクスカリバー。


 ──BRAAAAAAAAAAAA!!!

 ──DRAAAAAAAAAAASH!!!


 大混戦の開始を知らせる鐘が、鳴る。

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― 新着の感想 ―
[一言] おいおい。 まさかのあの世界との関わりかよ(;゜Д゜) ちょっとここからドラゴンボール的な世界観になっちゃうんか(;゜Д゜)
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