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113 正面衝突

「カルラ。会敵まであと何分?」

「──五分」

「了解。藤原は?」

「問題ない。仙石先輩は重いが」


 女子に重いとか言うなよ???


「よし。じゃあ重力ねじ曲げるよ」

「分かった」

「ああ」


 私はきゅっと左腕のガントレットを握りしめる。魔眼はバチバチと魔力マギを放っている。


「フィールド展開ッ! 破戒の時雨(アークレイン)。──Imperial Dawn」


 ──GRASHAAAAAAAAAA!!!!


 周囲に重力異常を発生させ、空気がよどみ、視界が薄暗くなり始める。


 そして私は左手の手のひらに、ガントレットの上からBlack Miseryを突き刺し、ズっと引き抜く──。


 王庭十二剣がひと振り、レーヴァテイン。それは手のひらを蒸発させるような熱を発し、そして重い。重力を操る私でなければきっと持てない。


「はは……。軽くたって持つのはごめんだよ」

『シオン? 今わたしのこと重いって?』

「浅倉。女性に重いなんて最低だな」


 お前が言うな。


「でもあの藤原イズミがジョークを言ったんだ。今日はお祝いでもしよう」


 乙女は目の前から来る脅威を考えないように呟いた。


「俺も姫野と一緒に、友達を作るチャレンジ中なんだ」


 見えない。でも、明らかに何かが来る。


「そのジョーク、最高」


 私は準備が出来た。不刃流アンワイズも全身に巡らせ、あとはレーヴァテインでの打ち合いさえ出来ればいい。


 隣を見ると、乙女カルラは並び立っていた。腰からすっと双剣を取り出す。型は胡蝶ノ夢。銘はMemento Virgo。


「君だけそんな禍々しい見た目になって、まるで主人公みたいだが、僕も主人公に憧れた時期があってね──」


 双剣を持った両腕を身体の前で大きくクロスさせる。そして彼はそれを勢いよく引き裂いた。


 ──SHINE!!


 双剣Memento Virgoが重なった一点にチリッと火花が散ったと思ったけど、それは断層の一部を引き裂いたところだった。


「モテ方で言ったらカルラだって主人公っぽいじゃん?」

「ははっ。ライトノベルのね。僕はいつだって、ファンタジー大作の主人公に憧れたんだ」


 彼はその隙間に腕をねじ込みそして引きずり出そうとする。肘から先が蒸発音を立て、そして彼はそれを引きずり出した。


「やあ、乙女座」


 その断層から出てきたのは、巨大な小指だった。


『痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!! アホかアンタはボケナス! いつもゆーてるでしょうが!!! もっとでかい断層開けるようになれって!! こーんなちんまいちんまい穴から我のダイナマイトバディが出るわけあらへんやろがい!! 乳が破裂するわい!!!!』


 デカ小指が喋った……。


純情女王スピカ。悪いんだけど、ちょっともうすぐヤバい相手が来るんだ。契約の更新をしたい。力を貸してくれないか」

『ふん! だーれが小指しか召喚出来へんあほんだらに力貸すねん! 我は慈善事業かい!!』


 なんか……イメージと違う……。十三獣王キングスってもっとこう……威厳とか……。


『おん? なんやこの匂い……。うんまそうな恋の濃厚な匂い……。あ? 龍のガキおるんけ?』

「いるよ。浅倉シオンと共にそこにいる」

『はーん。例の浅倉シオンか。あの小娘の濃厚な青春汁をすすってええんやったら契約更新してもええで』

「浅倉さん。折紙アレンと付き合ったら、その話を彼女にしてあげてくれる?」


 何この状況……。青春汁ってなに……。


「まあ……別にいいけど……」

『ほほう。決まりやな。ほやったらMemento Virgoを小指に刺してみ』


 カルラは言われた通り、双剣を断層から突き出た小指に刺す。


『抜いてみ。我の血でコーティングされとるから、それは音速を超える。身体が持つかは知らんけどな』

「ありがとう純情女王スピカ

『ええけどなぁ。アンタもええ加減女の一人や二人作れや。ほんま。子どもの時分からやれ政治や、やれ魔剣やゆーて。ほんで、初めてひとり──』


 ばつんっと断層が閉じられ、小指は押し戻される。純情女王スピカってあんな感じなんだ……。


 期せずして乙女座と出会ったけれど、カルラは苦笑いを浮かべている。


「うちの十三獣王キングスがうるさくてごめんよ。そっちの人も?」

「や、ミーちゃんはもうちょっとお淑やかだよ……」


 なんかただの関西弁のギャルだったな……。


 それでも、カルラの持つ双剣Memento Virgoは尋常でない覇気を纏っていた。


「これでちょっとは主人公っぽくなれたかな?」


 乙女カルラは軽口を言って笑う。


「悪魔の力にばかり頼るなよ」


 藤原イズミは三節棍を振り回す。そして、彼の魔剣技アーツが発動する。


皇帝の鏡(インペリアルミラー)。──Dreadnought Quartet」


 カルテットは、彼の魔力反射シールドの展開技であるドレッドノートを四重にして、更に広域に広げたもの。そのシールドは私たちを包むけど、ソレを防げるのかは分からなかった。


 ソレは視界の中心に映り、ただ歩いてくるだけ。


 ただ歩いているだけなのに、私たちはもう死んだかのような感触を得た。


 元フェニックス七年生、荒川ハヤテ。

 元リヴァイアサン七年生、新羅セツナ。

 元ラタトスク七年生、八神ライザ。

 元リヴァイアサン七年生、降神カナン。


「はは……。全勢力を南に集中砲火かぁ」


 レーヴァテインに力を込める。


「……行こうか」


 戦いの火蓋は切られ、賽は投げられた。

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― 新着の感想 ―
[一言] うわぁ(;'∀') こりゃあ何度か死ぬわ(;'∀') でもってさらなる衝撃で蘇生するわ(;'∀')
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