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110 特殊訓練実習

「おはよう諸君。今日も──」


 はぁ〜。という酷いため息が周囲から漏れる。降神オリガの「今日も」という言葉を聞き続け二ヶ月。世間は冬になり、ロサンゼルスでは未だ沈黙と爆撃が続く中、私たちは地獄の訓練を続けていた。


 今日はなんだろう学園の外周五十周だといいなぁ。外周って何も考えなくていいし……。


「──筋トレ」


 バタン。姫野がぴゃあという声を上げてぶっ倒れた。


「と言いたいところだが、お前たちの身体はそろそろ最適解に近い。ボディメイクは程々に、今日から特殊訓練を再開する」


 学生が揺れる。


「まじ!?」

「剣が握れる!?」

「天使! 天使ィ!」


 これまでの鬼畜訓練のせいで私たちはぶっ壊れちゃっている。ギルティ。


「それに、そろそろ滋賀の遠征から七年生が戻ってくるからな。疲れているあいつらには申し訳ないが、クリスマス前にひと働きしてもらおう」

「てことは七年生と手合わせですか?」

「そうだな。単純な構図とするならそれでいいだろう。疲れているだろうから今の本気がちょうど格上で、申し分ないんじゃないか?」


 本気の七年生と手合わせできる!?


 ここでひとつこの世界の序列について思い返さねばならない。


 魔剣師の国家資格試験というのは、実は六年生のうちに行われる。魔剣師として早くに就職したい人間は、六年生でこの学園を卒業することが出来るのだ。当然就職先としては各種企業の警備部門であったり、研究職、その他に特異点ゲートの後衛部門とかもある。


 七年生というのは、ヴァチカンやその他中枢機関への特殊就職を見据えた修練の期間。大学で言えば院進、更にドクタークラスへの進路と言える。


 だから学生にも関わらずライザ先輩や折紙カナンは剣聖パラディンに近いと言われているのだ。


 いや、もう折紙カナンは折紙じゃなかったや。


 降神カナン。降神本家の跡取りとなった、名実ともに日本最強の魔剣師。


 来年の初日の出と共に、次代の剣聖パラディンとなる可能性が最も高い男だ。


「ま、アイツらも余裕ぶっこいてる訳じゃあない。そう簡単にのせるとは思わない方がいい」


 ただ、とオリガ先生は付け加えた。


「七年生のうちひとりでも倒せたら、お前たちを全員学生級(ペイジ)から専門級エキスパートに昇級してやる」


 再度周囲がざわついた。なぜなら専門級エキスパートこそが、国家魔剣師資格そのものだからだ。


「そんな無茶苦茶できるんすか!?」

「だって試験監督も協会理事も、わたしだしね」

「まじかよ、これが職権乱用……」

「やや。考えてもみなよ。これまで学生の八割が模擬学生(イミテーション)だったんだぜ。端的に言ってこの業界は人手不足なのさ」


 つまり、七年生を倒せる力があれば、一気に就職ラインまで到達できる。


 もちろんそれが通過点に過ぎないことは理解しているが、魔剣師を正式に名乗ることが許されるという事実には震えた。


「アイツらには副学長が引率でついてるけど、さっきメールしておいたから、その辺り、了承は得てる」


「ルールは?」


「いつもの模擬戦形式も単純かつ美しいが……。そうだな、対魔戦を想定したタワーディフェンスにしよう」


 その後降神オリガが語ったルールはこうだ。まず、舞台となるのは第一校舎ヘックス。六角形の校舎のちょうど中心にある鐘楼、その鐘を鳴らされたら下級生側の負けとなる。


 チーム編成は、悪魔軍こと七年生。


 対するは一年から六年生までの下級生チーム。


 数的有利はあるが七年生は文字通りの一騎当千。勝てるだろうか……?


「繰り返すが、七年生はひとりでも倒せればいい。ただ、鐘をつかれたら負けだ。シンプルな防衛戦でいいだろう」


 私はその防衛戦という言葉に少しだけ引っかかった。


「浅倉、どうした?」

「これって、今後私たちが悪魔と戦うことを想定した戦闘訓練ですよね」

「そのつもりだけど?」

「防衛戦になるってことで、いいんですね?」


 降神オリガの瞳が瞬間揺らいだ。だが、表情は崩さぬまま、こちらを見据えた。


「ああ。そうだ。各々がその『鐘』を自分の一番守りたいもの、そして守るべきものとして考えてくれ」


 私が一番守りたいもの、守るべきもの。


 それはもちろん、巻き込まれるいわれのない無辜の民。彼ら彼女らを、決して災害の憂き目に遭わせてはならない。


 私のすべきことはそれだと感じた。


 だが、これから始まる訓練に際して、あまりにその目標は抽象的では無いか?


 あの「鐘」を守りたいものだと考えるのならば、それは抽象的な何かではなく、具体的なひとつである必要がある。


「……」


 ふと、不思議な感覚が襲った。


 私はあの鐘楼を何に見立てればいい?


 私は一体、何を守りたいんだ?


 それが分からないで、果たして大丈夫なのか?


「小隊の編成は個人の判断に委ねる。それぞれが最善だと思う行動を取ってくれ」


「はいっ!」


 皆が力強く返事を返し、校舎を囲うように散ってゆく中で、私だけは明確な意識を抱いて返事をすることが出来なかった。

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