109 零式
「浅倉! 重力操作にばかり注意をやるな! それじゃ器用貧乏だッ!!」
「はいっ!! ──ガハっ」
私は壁に叩きつけられる。
全ての衝撃を相殺する、学生寮地下の第二トレーニングルーム。そこに籠って、私と降神オリガ先生は時間外実習をやっていた。
相手役をしてくれているのはなんと、リヴァイアサンの明滅レオンだった。
「それで剣聖目指してるだって? 馬鹿かよ」
口は悪いが、その通りだ。今ライザ先輩とやっても力の差がありすぎる。明滅先輩は知識と技術、そして力において格上で、明確に超えるべき存在として適任。
私を半殺しにしてもいいという条件でこのトレーニングを引き受けたという。なんで私にそこまで恨むことがあるのかは分からないけど……。
「明滅。いい火力だ。そろそろ狂化暴走を使えるか?」
「ああ。こんだけムカついてりゃいつでも青天井だ」
──アレが来る。
明滅レオンが自らの指で身体に傷をつけると、それがトリガーとなって、身体中の細胞が活性し始める。
明滅レオンの目が、白に変わる。
「六年生を全員吹き飛ばした、魔剣技……」
彼はグレネードランチャーを魔剣として用いるが、それは捨て、素手でグレネードを持つと、それが身体と同化してゆく。
彼が拳と拳をぶつけると、小爆発が起こる。こうなったら、もう誰にも止められない。
「いいか、浅倉。この状態の明滅は、言わば不刃流一式の鏡映しのようなものだ。お前はこれを超えるために、ソレを身に付けなきゃいけないんだ」
事前に言われた、ある不刃流。
それは、零式。
『不刃流一式は、最も古いが故に最も体への負担が大きい。だが、単純である分最も強い』
『それを超えるために今までいろんな不刃流が作られてきたんですよね?』
『そうだ。だけど総合火力で一式を超えるのは無理だ。でもね、私の姉はそれを超える業をずっと考えていた。降神本家にも決して伝えることなく、ただ一人その考案に時間を費やした』
──それが不刃流零式。
結局、降神マユラにもその生涯を終えるまで発動することは出来なかった。
降神オリガだけに伝えられたたったひとつの方法。それは──。
「──自分を、愛すること」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃ、ねぇ」
──BOOOOOOM!!!
明滅レオンの蹴りによって私の左半身は爆破され、そのまま壁に吹き飛んだ。
ガントレットで局所的に中和フィールドを展開したけれど、応急処置でしかない。骨に染みる激痛が身体を襲う。
私は追撃が来る前に明滅レオンにかかる重力を反転させ、天井に叩きつける。
「──ぶっ殺す」
その隙に不刃流三十一式を準備。『衝動』を使った身体へのバフは充分。
そして私はガントレットという鞘に収まった魔剣に話しかける。
「イオリ、行ける?」
「お風呂上がり、コーヒー牛乳おごりね」
「もちろん。アイスもつけちゃう」
「へへ、喜んで」
Black Miseryをガントレットをした左腕に突き刺し、ゆっくりと引き戻す。引き抜いた部分から、Black Miseryは魔剣レーヴァテインへと姿を変える。
二刀流だと意識が散るため、二本を一本に統合したのだ。イオリ曰く、ミーちゃんと同じ空間、永遠図書館に放り込まれて気まずいというのはあるらしいけど……。
そしてレーヴァテインを所持したことにより、右目の魔眼が発動する。
「破戒の時雨。これが今の私の、全力だッ!」
──SMAAAAAAAAAASH!!!!
──BOOOOOOOOOOOOM!!!!
***
氷嚢で頭を冷やしていると明滅レオンが唐突に私の隣に座った。
「お前はゴミだ」
「いきなりなんです」
失礼な人ですこと。確かにさっきは負けたけど……。
「だが、口先だけのゴミじゃない。明確な目標を持つ、まともなゴミだ」
「まともなゴミ……」
すると彼は私にスポドリをくれた。ありがとうございますと言ってこくこく飲む。
「俺は一般市民の出自だ」
彼は唐突にそう言った。
「だから俺を下に見る魔力家系のやつには負けたくなかった」
強くも穏やかな口調だった。
「六年もここにいればわかる。魔力家系と平民の力の差なんてな。七年の奴らのツートップは両方名家だ」
「確かに……」
「だから自暴自棄だった。そんな時に、平民の出自のくせに、何も知らないで剣聖になりたいとかほざいているやつがいると知って、腹が立った」
「す、すみません」
「けど実際に殺しあってみてわかった。お前の剣は生半可な気持ちで握られているものじゃないと」
彼はそれ以上何を言うでもなく、立ち上がってその場を去った。結局、ちょびっとは認めて貰えたってことで良いのだろうか。
そこにオリガ先生がやってくる。
「『自分を愛すること』できそう?」
「正直分からないです。自虐は得意なんですけどね……へへ」
「そうか。私にはマユラの言う理想が分からなかったが、お前には分かるかもしれないと思ったんだ」
「自分を愛するって、難しいですね」
「ならさ、まずは誰かに愛されてみることから始めたら?」
「えっ」
「誰かに愛されている自分のことなら、好きになってやれるかもしれないよ」
そう言って彼女もまた立ち去った。すると、入れ替わるように、折紙アレンが部屋にやってきた。
「シオン。ここに来れば手合わせできると聞いたんだが」
「イオリでしょ……」
「今となっては本気で力をぶっぱなせる相手はお前くらいだからな」
「それは、光栄だなぁ」
私はスポーツドリンクを置いて、もう溶けてしまった氷嚢も置いた。
「じゃあ、やろっか」
「不刃流研究会って感じだな」
「へへ、それ面白い。やる!」
そして私たちは、結局深夜三時頃まで不刃流をひたすら打ち合っていた。翌朝寝坊で怒られた。
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