106 光になるんだよ
「それでは改めて、みんな、フェニックス寮へようこそ! 我が家だと思ってゆっくりしてね。じゃ、いただきます!」
零戦マリサ先輩の声に応え、それぞれ「いただきまーす」と言って夕食をとった。フェニックス寮での初めての日。既に入居していたキュクロプスの人たち、リヴァイアサンの人たちも含め、私たちを歓迎してくれた。
まあ、一部というか明滅レオンというかはずっと睨んでたけど……。
フェニックス寮は前にも一度訪れたことがあるけれど、まあまあでかいお屋敷サイズのお城である。真面目な気質があるのか、至る所に本棚があって個人的には嬉しい。
入口から入って正面には大きな階段があり、登って左手が男子棟、右手が女子棟になっている。
登らずに左へ行くと食堂。左奥手がお風呂。こっちのお風呂はめちゃくちゃでかい。掃除が大変そう……。
登らずに右手に行くと、そこには談話室があった。
元々フェニックスの上級生がたむろする場所だったらしいけど、ラタトスクの伝統を汲んでくれたのか、綺麗にして、ふかふかのソファやテレビを置いてくれていた。
右奥手は小規模、と言っても三階建てだけど図書館がある。持ち出しは自由で、自習室にもなる。便利だ……。
大階段の裏側にはまた通路があり、トイレとか給湯室。豪華な見た目に反して、意外とちゃんとしてる。
リヴァイアサンのトレーニングルーム、キュクロプスの工房は音がかなり出るということで、防音性を考え、地下にある空洞を改造工事して建造された。
それらの工事があまりに早いので何事かと思ったら、十四年生ことコタツ先輩が、知り合いに電話したらやってくれたとのこと。その知り合いというのは大手ゼネコンの会長で、それを聞いた一同は震えた。
「コタツさんこれでもいいとこのご令嬢なんスよ」
ガラスくん先輩はそう笑って言っているがこの学校やっぱ変だわ。
「そういえばフェニックスはマリサ先輩が取り仕切ってるんですね」
スペアリブをかじりながら言うと、零戦マリサ先輩は苦笑いをした。
「うちの七年生、荒川ハヤテって言うんだけど、人見知りなんだよね……。だから定期考査とかも無理でさ」
「荒川ちゃんと強いのに、そのせいでよく『今の代はハズレだな』とか言われてたよね」
ライザ先輩がチューハイ片手にやってくる。うわ、この人の飲み会毎日開催とかにならないでよ……頼むから……。
「ま、言う人たちも消えちゃったら口無しだけどね」
マリサ先輩は割とドライにそう言った。私は不思議に感じたが、彼女曰く──。
「頑張ってる人を笑うようなヤツが在学してる学園なんて、間違ってると思ってた」
そういう見方もあるのか。
ただ、自分たちが失ったものについて、考えれば考えるほど、夢の跡のように、霧散していくような気がしていて、不思議な感情だった。
「それは前を向いた証拠だよ。後ろにあるものを足蹴にしているわけじゃない。立ち上がって、向きを変えたんだ。そう落ち込むなよ」
零戦マリサはスペアリブをナイフとフォークで綺麗に食べながら、そう言った。
「ありがとうございます。ちょっと、心が軽くなります」
ライザ先輩がだるんと絡んでくる。
「浅倉ちゃんは賢いくせに面倒くさいくらいグルグル考えちゃうからさー。わたしらは心配でしゃーない」
酔っ払いだけどやっぱり優しいな。
「それで八神さんはロスの件、どう考えてます?」
「いきなり話飛ぶじゃん。……んー、まあ言ってもわたしらって精鋭ではあるけど少数じゃん?」
学生とはいえ一騎当千くらいの力はある。だからこそ第一線で活躍している学生もいる。だが、結界解放の影響で、圧倒的に人手不足だ。
「まだできることはないんじゃないかな。だけどあのロリの考えには驚かされたよさすがに」
「幼女学長?」
「あの人、魔刃学園の特級結界の消失を敵さんのせいにして国連に支援を要請したんだ」
「めちゃくちゃ濡れ衣……」
「ま、敵さんのやってることは大量虐殺だ。文句は言えまいよ。それに、これはもう牡羊座が動くか蠍座が動くかの際だったからね」
「結局先手を打たれたってわけか」
マリサ先輩はお肉をぱくり口にやると少し暗い顔をした。
「マリサまで。わたしらが暗くてどうすんのさ」
「でも」
「わたし達が、光になるんだよ」
そう言った先輩の瞳は輝き、力強かった。
この瀬戸際の緊張にずっと晒されて、一番潰れそうだったのはライザ先輩だったのかもしれない。
だけど、倒すべき敵が明確に分かって、守るべきものもはっきりした。
もう、何も迷わなくていいのだ。
「やっぱ、八神さんはかっこいいっすね」
零戦マリサに笑顔が戻る。
「ふふん。なんてったって、次期剣聖に最も近い女だからね」
私もこうしては居られない。
トレーニングルームがあるというのなら早速行ってみよう。そして、剣をめっちゃ振ろう。
守りたいもの、倒すべきもの、ハッキリしたのは私だって同じだろう。
そして私は沢山食べると食器を片付け、スポーツウェアに着替えるため、部屋に向かおうと──したところをライザ先輩に捕まる。
「ぐえっ!」
「まさか、初日からトレーニングしようとかしてる? パーティーしてるんだよ? 脳筋なの? はは、逃がさないよ?」
やだやだ!! と叫んでも結局私は八神ライザの強制飲み会には引きずられていった。くっ、気高い精神で逃げ切れると思ったのに……!
翌日、リヴァイアサン、キュクロプス、フェニックス、ラタトスクなど関係なく、無数の成人学生達の酒臭いしかばねが続出したそう……。
新たに魔刃学園統一寮の寮母をすることとなった元ラタトスクの管理人さん曰く「ライザに酒を飲ませるなとあれほど」との事だった。
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