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102 真実②

 第一校舎(ヘックス)の広間へと数十名の学生が集められた。松葉杖をつきながら、私はそれがただ事では無いのだと理解した。


 ラタトスクの一年生が割合多いが、フェニックス、リヴァイアサン、キュクロプスの学生もチラホラといた。その殆どに見覚えがあり、交流をしたことがある人だ。


 授業とかいいのかな。そんなことをふと考えていると、皆の前に降神オリガと、彼女の隣をとててっとついてきた幼女学長がいた。


 昨日の夜、魔法を解くとかって言ってたけど、あれはなんだったんだろう。


「おはよう諸君。集まってもらったのは他でもない。皆に伝えなければならないことがあるからだ」


 今まで見てきたどの降神オリガよりも真面目な口調で言うので、皆は身を引きしめた。


「おはよ! 大事な話があるんだよっ!」


 幼女学長がんばっと手を挙げる。そして、唐突に空気が変わったような気がして、その手の先に視線が向かう。


 手は上から下へとスっと下りてゆき、そして学長は呟いた。


「──解除」


 ──BARI、BARI、BARIT!!!!!


 氷河が崩れるような轟音が辺りを包む、私たちは混乱し、その中でも表情を変えない教師陣が異様に思えた。


「これは一体──」


 神楽リオンが呟いた。その肩を、八神ライザがそっと叩く。


「目覚めの時間だ」


 彼女にも、そして私にもそれがなんのことは分からなかった。だが、次に幼女学長の頭部を見た時に、その全容の半分を理解することになる。


 幼女学長の頭には、羊の角が生えていた。紛うことなき、角だった。


「まさか、そんなこと」


 乙女カルラは後ずさる。


「みんなっ。隠しててごめんね! 我の本当の名前は幻想守護聖(エンジェル)。牡羊座の十三獣王キングスなんだっ」


 幼女学長が……十三獣王キングス


「この学校はある理念の元で創設された。それは、十三獣王キングスの中で最も強大な王、獅子座を封印するため。人間側に手を貸す幻想守護聖(エンジェル)が作った箱庭だ」


 降神オリガはそう説明した。


 あちらこちらから動揺の声が挙がったが、私は幼女学長が十三獣王キングスだったことよりも、なぜ今それを、ここにいる数十人にだけ伝えたのかが分からなかった。魔刃学園の学生数は千を超えるというのに。


 だが、それを問うまでもなく、あちら側はそれを説明するつもりでいたらしい。


「たった今、この学校を包んでいた特級夢想結界を牡羊座が破壊した」


 ──特級夢想結界。


「それは、君たちを育てるため牡羊座が作った、まさに箱庭だ。だが、もうそれは必要ないと、我々は判断した」


 一体何を……。


「この学園の全学生は、ここにいる者だけだ」


 ──え?


「待て待て待て、それどういう──」


 姫野が慌てるが、急に、何か恐ろしいものを見たような顔になった。


 加えてライザ先輩が言った。


「思い出せないだろ。ここに居る学生以外のことを、何一つ」


 そう、それは姫野だけのことじゃない。そこにいる私たちは、共に学園生活を送ってきたはずの同級生のことを、何一つ記憶していない。


 そこにあったのは、悲しみでも絶望でもなく、ただ夢から覚めた時のような、少しの切なさだった。


 追いかければ追いかけるほど、その記憶は泡沫のうちに消えてゆく。


「あれは全て結界が見せていた夢だ。だから模擬学生(イミテーション)は積極的に君たちとは関わらない設計になっていた。六年生になれば、全て伝えられる」


 ああ、だからマリサ先輩やライザ先輩はいつも通りなんだ。


「君にはその真贋が潜在意識下で理解出来ていたようだけどね」


 降神オリガは私を見て言った。


「今ここにいる学生の名を、君は言えるはずだ。つまり、君は本物としか関わりを持とうとはしなかった。十三獣王キングスが作った特級の結界を、無意識で無視していたんだよ」


 それが「本物の目」だ。


 降神オリガがそう付け加えると、なにか重いものが肩にのしかかったような気がした。マリサ先輩やライザ先輩はこのことを言っていたんだ──。


「アタシたち、騙されていたってことよね」


 鋭い目付きで東雲スズカは幼女学長を見た。


「魔剣師の素質がある人間なんて、その実、総数が少ないから! 君たちの心を豊かに育てるためだったんだっ!」


 その人心をまるで理解しないかのような物言い──あえてそうしているのかもしれないが──に皆は幼女学長が悪魔であると悟った。


「だけど君たちにもう、そんなゆりかごは必要ない。君たちはひとりひとりが兵器になることができるんだ。特に浅倉シオン君は獅子座を──」


 降神オリガの言葉に熱が入るが、そこでぽしょっと誰かが呟いた。


「あの」


 綾織ナズナは一歩前に出る。控えめに胸元に手を挙げて。降神オリガはそれを認める。


「あたしにも、背負わせてください」


 反対側の手は、震えながら、私の手を握っていた。


十三獣王キングスとか、正直よくわかんないです。何となく大事だってことしか。……でも、大事だからってあたしの大切な人に、大人の責任を押し付けないで……! もしどうしてもって言うなら、あたしも背負います。彼女となら、あたし、地獄にでも行きますから──」


 降神オリガは半ばそれを期待していたとでも言いたげな顔で見つめていた。


「そのつもりだよ」

「えっ?」


 降神オリガは私たち学生を見回した。


「浅倉シオンは鍵になる。だけど、何本も必要な鍵の一本でしかない。そんな重責を丸投げするほど、大人は腐ってないさ」


 オリガ先生の手が、ナズナの頬に添えられる。


「全員で勝つんだよ。ひとりが英雄として犠牲になるんじゃない。全員で勝つんだ」


 降神マユラという英雄を犠牲者として失った妹の言葉は痛切な色を帯びていた。


「全員で強くなるには模擬学生(イミテーション)なんかに割く時間は無い。だから、真実を明かした。君たちが私に、本物を見せてくれ」


 私一人じゃなくて、みんなで。


 ナズナの言葉があれば、私は一生頑張れる、そんな気がしたんだ。


「だったら早くしなさいよ」


 後ろで言ったのは東雲スズカだ。


「倒さなきゃならない敵がいるんでしょ。なら一分一秒でも惜しいわ。こんなところでグダグダしてる暇があったら、さっさと訓練を始めて」


 偽物とはいえ、ここにいる学生は皆友人を失くし、その記憶すらも無くした。


 スズカのそれは強がりだったが、今の私たちには必要なものだった。


「ああ、始めようか」


 微笑んだオリガ先生は、そうしてエクスカリバーを取り出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの正体!! まさかの真実!! こいつぁシビれる展開ですぜ(;゜Д゜)
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