99 救難実習⑤
妻鹿モリコが定期考査で使った増幅魔剣から着想を得た漆黒のガントレット、Amplifier。
Black Miseryの重力操作をより増幅させる技だけど、まさかこれまで真似するとはね。
「ナズナァッ!!!!」
私の黒いガントレットと、ナズナが幻影への変身で作りだした白いガントレット。
双方が重力の操作権を奪い合う。
「クソゴリラ、ここが空ってこと忘れてんじゃねぇよ」
──BRAAAAAAAAA!!!!
ナズナに向かって爆炎を吐き出した千原ロナンが叫ぶ。
確かに重力の安定を奪われたら分が悪い。
そして爆炎から生じた煙によって視界は遮られ、一瞬の判断の後に避けた弾丸に、次は気づけないなと思う。
「間違いない。姫野が構えてる。あの狙撃只者じゃない。重力のゆらぎが感知出来なかったら、ガントレットぶっ壊されてた」
──やっぱり、みんな進化してる!
「まだまだァっ!! 利己的な遺伝子──ファースト、Amplifier。セカンド、Amplifierッ!!!!」
おいおいまじかよ、ロナンが呟いた瞬間に、私たちは地面に墜落する。
両腕に純白のガントレットを宿した綾織ナズナは、絶対的な重力の支配権を得た。
「シオン……すごいね……こんなの、操ってたんだ──!」
苦悶に歪む顔。だけど、私だって腕二本のガントレットなんてつけたことない。
私たちは指向性を持った重力によって縦横上下に吹き飛ばされ、叩きつけられた。
「はぁはぁ──」
「ナズナちゃん! やりすぎると前みたいにトぶぞ!」
やや暴走しかけていた綾織ナズナを遠距離攻撃から守るために狙撃で牽制していた姫野が声を出した。
それは最悪手だ、姫野ッ!
「ウラァアアアアアッ!!!」
Gravityの圏外から、顔面正義ゴリラこと尾瀬タイガが何かを投擲する。
その投擲された物は、人だ。
音速をぶち超えてぶっ飛ぶのは、東雲スズカ。
そう、マジシャンの美人助手と同じだ。注意を逸らすのが、リベロの役目。元々の敵を、忘れちゃいけないぜ!
それに、居場所を教える狙撃手なんて、まだまだだね。
「強制抜刀──晴天虚虚ッ!!!!」
それは、天秤座から何かを学んだことをイギリスで練った東雲スズカの、技のひとつ。いついかなる状況下でも、強制的に抜刀を発動させる業──。
それなら、自らが飛ぶ音速をも超える速度で刃は放たれる……!
「スズカッ! オレの方が長くイギリスにいたんだぜ、ただのバカなわけねーだろ! ナズナちゃん!」
「がってん! 利己的な遺伝子──サード」
おいおい、まだ乗っけんの!?
現場の全員が、姫野とナズナ以外は全員そう思った。だけどもう遅い──!
「──聖域に至る弾丸」
刹那、煙が晴れる。
そこには、ナズナの肩に対物ライフルを置いた姫野。照準はスズカ。
ナズナがコピーしたのは姫野の技。つまり、弾は二発ある。
たった一点に重力指向性は向けられ。
──GRAAAAAAAAAAAAASH!!!
弾丸が、スズカに発射される。
──SRASH。
当然、スズカはそれを斬る。弾丸を斬るなど、彼女が小学生の頃からやってきたことだ。だが、その最高速度の弾丸は、二発ある。
「聖域に至る弾丸──ぶっとべ」
その聖弾はいかなるものも貫く。
──GRAAAAAAAAAAAAASH!!!
その弾丸は予備モーションに入っていたスズカ、そして、その直線上に居た尾瀬タイガを貫いた。
スマホに、ダブルダウンの通知が入る。
──やられたッ。でも。
それと同時に、重力の雨が止む。
自分の左腕に、重力操作権限が帰ってくる。
綾織ナズナ、多重コピーにより気絶。姫野ユウリ、反動により行動不能。
「殲滅か?」
再び飛んだロナンが言う。
「そうみたい。でも当初の目標と違って犠牲が出てしまった……」
「落ちたやつのことは後で考えろ。お前はその程度の合理性は持ち合わせているだろ」
「そうだね。そうだ。行くよロナン」
「呼び捨てんな殺すぞ」
私たちは残る悪魔部隊の殲滅のために飛び立つ。だが、そんな思惑は直ぐに消える。その時、視界の奥に広がったのは、唐突に現れた地獄だった。
***
■SIDE:藤堂イオリ
「コウタ、コウタッ!」
炎と瓦礫の中、大動脈を傷つけられた牧野コウタを、わたしはただ抱えるしか出来なかった。
「嗚呼。人間様よ。弱い。ただ弱いと言うわけでなく、意味もないほどに、弱い」
目の前にいるのは、わたしと同じだ。人じゃない。明らかに人外の何か──。
スーツを着ている、ひと目には温和な男性。だが、頭部がヤギの頭。
それだけで想像がつく、お前は。
「申し遅れました。人間様、我の名前は絶望領域と申します。ええ、ご想像の通り、十三獣王は山羊座でございます──おや、貴女様は人間ではありませんね。では、手を抜く理由もありませんか」
ハァハァハァ……。
身体中が軋む。長年魔剣として生きてきたが、こんなにも相性の悪い存在は初めてだ。
そして相手が何故そんなにも自分と都合が悪いのかがわかった。
こいつは十三獣王というよりも──神に近い。
神の被造物である魔剣は神を殺せない。
神に近しいこのヤギ頭を、わたしは殺せない。
「ごめん、コウタ。君を守れない──もうこいつをやれるとしたら、──彼女しか居ない」
わたしはコウタの傷口を焼いて塞ぐと、彼の苦しむ声を聞き、静かに目をつぶった。そして、体組成を変更する。
人から、魔剣に。
託すしかない。「私」という魔剣の、新たなる正当継承者に──。
その戦場には、魔剣レーヴァテインがひと振り、突き刺さっていた。
刀身が纏う炎は爛々と輝く──。
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