98 救難実習④
■SIDE:折紙アレン
『……こちら藤原。ダウンした。気をつけろ──アイツらの戦法は上……──』
リヴァイアサン、藤原イズミからの連絡が途絶えた。彼は最上捜索隊の敵対者に敵対する、悪魔側のリベロ。
それがやられたということは、既にどこかの偵察隊がリベロごとひとつ潰されたということだ。
「折紙くん! 藤原くんはなんて?」
行動を共にする曽根セイレが敵の魔剣師と戦いながら聞いた。
「落ちたらしい。敵の何者かがここに来るぞ」
「嘘でしょ!? 定期テスト三位が早々に離脱って……そんなことある?」
「あるとしたらひとつしかない」
三位のやつからより上位のランクをもぎ取った奴が、来る──。
「こっちなんて乙女とガチでやり合うのですらきついのに!」
「余所見してる暇があるのか曽根っ!!」
叫ぶ乙女。フェニックスの曽根と乙女カルラが剣で打ち合う中、こっちはこっちで妻鹿モリコの機械仕掛けの神様と戦っていた。
「クヒ……。四位に動かれちゃ……困る」
「シオンがあんなに苦戦したわけだ」
こっちは馬鹿なりに頭を動かして司令塔の真似事をしている。だが、単純に考えてこちらの分が悪い。向こうには戦力と作戦力に長けた人間が多い。
こちら側はより武力で圧すタイプが……。
──まさかあのエクスカリバーで適当にふたつに分けたのは、意図的だった?
悪魔的な動き、つまり力戦を得意とする悪魔側と、頭脳で盤上をコントロール出来る魔剣師側……。
それぞれが最前の動きをできるようにわけた……なんて言うつもりじゃないよなオリガ──。
俺は備えた。そこに誰が来ようとも悪魔サイドの被害はここで食い止める。
「不刃流──略式」
そう詠唱して妻鹿モリコが乙女カルラと一線上で重なった瞬間に、吹き飛ばす。
「グエッ! クヒ……騙されていたのはこちらだったというわけですね……クヒ」
そして、魔剣師ふたりを潰した俺は、足を破壊された曽根を起こして最上の捜索を急ぐ。
「強くてイケメンとか、マジ無双すね」
曽根が痛み止めにそんな軽口を言う。
「どっちも要らないな。本当に欲しいものは、いつだって手に入らない」
曽根セイレは綺麗な顔から「わかんねー」と粗暴な言葉を放ち、笑った。
そして、俺が本当に欲しいその子は、瞬間、目の前に現れた。
爆炎を吐く、猛る白銀の龍の背中に乗って、いかめしいガントレットを身につけ。
「シオン。今度はどんな作戦だ?」
聞くと彼女は答える。
「最上アズキが誰かに見つかる前に、悪魔を殲滅すれば、それで問題、解決だよね」
曽根セイレはゾッとしていたが、アレンはふふっと笑った。
「ははは。まるで悪魔だな──」
***
■SIDE:UNKNOWN
──数分前。
降神オリガは戦況を把握するモニターを監視しながらポテトチップスをつまんでいた。
つまらない局地戦が展開されている。これでは戦争じゃなくて「じゃれあい」だ。
猫カフェですかって。
降神オリガはそう思ってつまらなそうにエクスカリバーを操った。
だが、ある時間、ある地点でそれは起きた。
悪魔側の数名が、一度にダウンした。
二名の魔剣師──それもリベロによって。
遊撃部隊の殲滅戦略……?
ローラーなんて一見非効率だが、速度さえあればランダムより効率がいい。
「やってるのは誰だ?」
その名を見て、降神オリガは頬のニヤつきを抑えられないでいた。
浅倉シオン。
本物の瞳を持つ女。
降神オリガが浅倉シオンに求めているのはその「本物らしさ」だった。そして、浅倉シオンはその期待通りに動いてくれる。
この児戯でしかない訓練を、戦線の再現ではなく、いち早く現実の戦争と同じだと理解し、その最も合理的な解決策を導き出す。
その審美眼を、彼女は高く評価した。
「だけど、これじゃあどっちが悪魔かわかんないね」
魔剣技によって白銀の鱗を持つ破竜に変化することが出来る千原ロナンを、ただの足がわりにして高機動力を得ている。
ヴァチカンの秘蔵っ子をアッシーにするのか。最高のジョークだな。
空中戦に滅法弱い魔剣師の弱点を克服し、上空からの制圧──。あの黒いガントレットはなんだ? 重力を操作しているのか。理への干渉系ね。やるぅ。
悪魔役とはいえ、その中身は魔剣師でしかない。魔剣師はやはり地上戦でしか輝けない。上空から重力制圧されて、ドラゴンで焼かれて、不刃流まで撃たれたら、勝てるわけもない。
あの二人──浅倉千原は思うに最悪のペアだったけど、どうやら最低最悪の相性をも無視できるのが浅倉シオンらしい。
ますます興味が湧いてきた。
ピコンと、曽根セイレのダウン報告が上がり、その区域では折紙アレンひとりになった。彼は早々に場を離脱し、最上の捜索に走る。敗走? いや、賢い。
浅倉シオンは深追いは時間の無駄と判断して綾織姫野陣形の破壊に飛んだ。
この先は競走だな。
綾織姫野陣が落ちるのが先か、折紙アレンが最上を見つけるのが先か。
「……」
でもこれじゃまだつまらないな。
対悪魔戦がこんなに理知的に行われることなどまあ無い。そこには必ず不確定要素が生じるのだ。
「訓練だ。何もかも、もう少し不確定でもいいでしょう」
降神オリガはそう言って、とある召喚鍵を取り出した。
自らが契約する、その十三獣王の意匠が掘られた、その鍵を。
さて。
「──テストを始めようか」
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