96 救難実習②
「俺の名前は尾瀬タイガ。定期考査では妻鹿に吹き飛ばされた。でも集団戦は得意だと自負してる」
正義強めな太眉の青年が円陣を一瞥すると、皆それを肯定した。ただひとりを除いて。
「はっ。雑魚がしゃしゃるなよ。そこの『なんでも注目の的女』にリーダーやらせりゃいいだろ」
軽く目を向けられたのは私だった。え、私注目の的なの……? 照れる。
「まあまあ。浅倉さんは準優勝だけど、陰キャだからリーダーシップはないと思ってくれていい」
乙女カルラ、フォローはありがとうだけど死にたくなるから言葉には気をつけろ!
「は? それで剣聖目指すとかほざいてんの? 剣聖ってヴァチカンのエクソシスト大隊を率いる指揮官だぞ」
言われなくたって──知ってるよ。
「名乗ってもいない人にとやかく言われる筋合いないよ」
そう答えると、向こうは鼻で笑った。
「ローマからの帰国子女。ヴァチカン聖剣学院からきた。リヴァイアサンの千原ロナン。お前らとは格が違う」
明らかに和を乱して敵意をむき出しだ。そうだ、リヴァイアサンは本来そういう性質を持つ。
「定期考査の圏外はアンタもでしょ。人を救う気がないなら帰って」
スズカは半ギレ。
「あんなお遊びは免除されてるに決まってんだろ。定期考査で一位の東雲スズカ、だっけ? 落ち目の名家の跡も継げない無能な馬鹿おん──」
──SHINE。
私に吹き飛ばされた千原は数メートル先までぼろ雑巾のように跳ねていった。
「何すんだこのアマ──!」
「ガキがいきがってると潰すぞ」
私は漆黒で装甲化した左腕で千原ロナンの胸ぐらを掴んだ。
千原はそれでも私を睨んだ。へえ、ぶっ殺してもいいってことか。
「──オン」
どうやって殺そうかな。まずは足を……。
「浅倉シオン!!!!!!」
はっとして、私は両腕を乙女カルラと尾瀬タイガに。お腹をぐっとスズカに押さえられているのに気がついた。
あれ、今私何しようとして──。
「自分の力も制御出来てねぇ奴が……お前こそイキってんじゃねぇよ……」
苦しそうに首を押さえ、千原ロナンはそう言った。
今私は、この人を殺そうとした?
『嗚呼、間違いなくそうじゃな。そうしたいと流れ込んできたわ』
私は、今、十三獣王の力で人を殺そうと──。
「ああもう、めんどくさいやつね。言っとくけど、今のは百パーセント千原が悪いから! 浅倉はうじうじしないでよ?」
「ってわけだから、尾瀬。浅倉さんはうちの班のリーサルウェポンってことでどうかな?」
尾瀬タイガリーダーはそれを承諾した。千原ロナンはそれを使いこなせよボケと私に言い放った。
そしてスズカが私にそっと手をつないだ。
「力を持つということは、それと同じだけ出来ることが増えるわけじゃない。きっと出来なくなることの方が多い。前のアンタならビンタで終わってた。今なら誰か殺すまで止まんないかもよ。それでいいの?」
「やだ。絶対、そんなのダメだ」
「アンタ、人を守りたいんでしょ?」
「うん」
「アタシのこと守ってくれたのは嬉しかったでもね、結果アンタが傷ついたら、意味ないじゃんね」
「──ごめんなさい」
「あのキモリヴァイアサンは平気そうだし、ほっとけばいいよ。自業自得」
「ううん、ちゃんと謝る。それで、あの人の言う通り、ちゃんと、この力を制御する」
本当は薄々気がついていた。
カザネが部活に入ってきて、リオン先輩と組んだのは、あの二人が相性抜群なのともうひとつ、もうリオン先輩では私を止めることができないからだ。
最近の私は、ファイトクラブ最強の魔剣師、八神ライザとばかり訓練をしていた。
それが当たり前になっていた。
自分の実力があるということを、自分を卑下する性格のせいで、正確に捉えられていなかった。
「ネ、浅倉シオン」
円陣に遅れて戻ろうとした私に、妻鹿モリコが話しかけてきた。
「力を御するお手伝い、できるかも。クヒ」
「お手伝いって、どんな?」
モリコは手に小さな十徳ナイフを持っていた。
「これ、私の発明品。十徳魔剣。十種類まであなたの全力をストックしておけるの。それを開かない限りは、暴力が飛び出たりしない、えと、たぶん」
「これ、欲しい。あの、いくらで作って貰える……?」
「これはね。浅倉シオン。あなたの力に惚れ込んで作ったオーダーメイドだから。お金は要らない……クヒ。でもその代わり、えと、えとえと……」
「?」
「友達になってください……クヒ……」
「え、もう友達じゃない」
言うと妻鹿モリコは仰け反った。
「だで、で、だだだ、私、ストーカーだし……」
「ただのストーカーを花火に呼んだりしないって……。私ね、性格はともかく、あなたの腕はすごいと思ってる。あの試合で見せて貰ったものを、もっと見たいって」
「じゃあ、その、クヒ」
「うん。友達だよ。だから、お代はちゃんと払わせて。多分、十徳魔剣が、成長の鍵になる気がするから」
「クヒヒ……変な人……」
そして私たちは円陣に戻る。悪魔を退治するための最高のプランを練るために。
それと、この短絡的なバカ頭をちょっとでも冷やして、もう間違いを起こさないように。
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