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94 新学期

「夏休みが終わって秋学期に入る。今期において上級生は滋賀特級特異点への学習目的遠征──」


 ヤクザメガネ副学長からマイクをぶんどった幼女学長がジャンプする。


「つまり修学旅行だねー!! 秋はいいよね! 文化祭もあるし!! 涼しいから体育祭もあるし!! 秋学期ってサイコーだね! みんな! 青春してこー!!」


 幼女学長のぶち上げに対し、学生は狂喜乱舞した。眼帯先生が副学長の肩を叩き慰める。ごめんね副学長、幼女学長の方がかわいいから好きなの。


 そして春期定期考査の学年別の結果が発表される。第一位の人間は講堂の中心にある台に登る。


「第一学年。第一位、東雲スズカ」

「はいっ」


 ハツラツとした声で台に登るスズカ。副学長に肩車された幼女学長によって頭をなでなでされる。わ、いいなぁ。


「東雲さんの実力はメキメキ成長してますね! 先生としてはとっても嬉しいです。このまま、ぜひ、みんなのお手本となってください!」

「有難いお言葉に感謝します」


 そして、盛大な拍手が講堂から贈られる。彼女の頬が少しだけ赤らんだのを認めたのは私だけだろうか?

 あんなにバチバチ喧嘩し合ってたのに、今では仲良くなれたし、彼女の氷も溶けたのが、何より嬉しい。


 そして次々と第一位が発表されていき、第三学年では神楽リオン先輩が壇上に上がった。


魔力なし(プレーン)なのにすごいね! ってわわ!」


 リオン先輩は学長からマイクを奪うと同学年の、魔力がある学生に向けて言う。


「魔力をぶっぱなすしか能のない馬鹿どもに負ける気はない。それぞれ励め」


 超絶上から目線かつ女帝みたいな言い回し。だけどわかる、わかるんだ……そのサディスティックさに惹かれている人間がこの学園に少なからずいるということを……。


 先輩の言い回しはとても敵を作るが、敵を作れば戦う機会が増えるので本人は嬉しいらしい。


 しかも作った敵をぶっ飛ばしては惚れさせる魔性の女。私も最近ぶっ飛ばされるのが快感──なんでもないれす。


 そして第六学年──明滅レオン。


 私が密かに脅威認定している零戦マリサ先輩を、さらに実力で上回ると言われている男子。


 生徒会役員にしてリヴァイアサン。


 暴力的な戦闘スタイル、勝ち負けに固執し、敗北を忌み嫌う。


 そして、八神ライザが破門した男。


「──なんも言うことはねぇよ」


 そう言ってマイクを投げ捨てる明滅レオン。


 できることなら関わり合いになりたくない……。


「……いや、ひとつあった。二位(ゴミ)の分際で剣聖パラディンになるとかほざいてるガキ──殺すぞ」


 うわー。すごいこと言うなぁ。二位でもゴミなら私もゴミだなぁ……。というかやっぱみんな剣聖パラディンなりたいって言ってるんだ! 安心し──。


 周囲の目線が皆私を向いた。


「えっ」


 あっ──わ、私かぁ……。


 関わり合いになりたくないなどというフラグを立てた私は本当に愚かである。


 これは極めて憂鬱な秋学期になりそ……。


 そして第七学年。


 折紙カナン、そして八神ライザ。


 無表情の折紙カナンにライザ先輩が肩を組んでピースしている。


 講堂はざわついた。だけど、それは下級生だけのざわつきだと気づく。


 私は事前に聞いていた。


 最終試合、折紙カナンと八神ライザの試合はまる四十八時間──無補給無休憩で続いたものの、決着はなかった。


 二万五千本の魔剣を召喚し操る魔剣師、八神ライザ──。


 そして、たった一振の魔剣でそれらを捌ききる魔剣師、折紙カナン──。


 実力は拮抗しているが、間違いなく、今あのふたりが立っている場所が魔剣師の頂点に最も近い。


「ふたりとも頑張ってるから先生たち教えることあんましないんだよ! でもいっつも学生なのに最前線出てくれてありがとうね!!」


 幼女学長はふたりを撫でる。ライザ先輩はいつも通りのへらへらした調子だが、折紙カナンは微動だにしなかった。


 彼の持つ魔剣デュランダル。それは王庭十二剣の一振であり、不滅剣とも呼ばれ、決して壊れない魔剣として有名だ。


 だが、その魔剣の柄を幾度も破壊しては修理しているのが、折紙カナンという人間だ。


 アレンは言っていた。


『あいつは、壊れない物しか愛せない』


 その意味はわからなかったが、併せて聞いた魔剣の話から考えるに、彼は今までいくつもの何かを壊してきたのだろう。


 その深淵を覗くような双眸は、いったい何を見つめているのだろうか。


         ***


「壊れない物しか愛せない、かぁ」


 ファイトクラブの休みも明けて、正式に部活が再開された日、私はライザ先輩のスパーリング相手として呼ばれた。


「だとしたらさ、わたしめっちゃ惚れられてる説ない?」

「うわ、あるんだが」


 隣でリオン先輩にボコされているカザネが同意を示す。


 なるほど……。何やってもぶっ壊れないから──。


「まあでも、多少なりとも興味関心はあるだろうね」

「え、好きとかじゃないの〜? いでででで」

「うん。興味関心のレベルだね。だけど、興味関心があるおかげで、この学園は保たれてると思うよ」

「????」


 ライザ先輩は軽く水分補給をしてから言った。


「わたしが居なきゃ、たぶん今頃ここは更地だよ」


 ぞっとした。ここに折紙カナンがいる訳でもないのに、あの人間ならやりかねないという事実が、私を総毛立たせた。


 ライザ先輩に見せてもらったビデオで知った。この学校にはもうひとつ校舎があることを。


 第三校舎(ザ・サークル)にして七年生の定期考査の舞台は、定期考査の度に建て直される。


 それは、いくらライザ先輩が剣で防いでも、折紙カナンのその余力で、七十七回重ね鋼鉄防壁を容易く破壊してしまうからだという。


「上には上がいる。でも、アレの上には何も無い。シオンちゃん。もしあの上にあるとしたら、剣聖パラディンだけだ」


 ライザ先輩の言葉を聞いて、明滅レオンの言葉が過ぎる。


 でも──。


「なぁんだ、上がちゃんとあるんじゃないですか。なら、目指すだけですね」


 声と膝がガクガクと震え、鼻も出る。それでも私は曲げる訳にはいかない。


 破壊しか知らない人に、この夢まで壊されてたまるか──!


「あはははは。やっぱりいいよねシオンちゃんは。その調子でいこう。あ、でもその前に──」


 私は唐突に地面から突き出した魔剣に吹き飛ばされる。


「アレを殺るなら、先にわたしを倒してからさ」


 壁にボロ雑巾のように貼り付いた私はボタッと落ちる。私は誓った。もし戦争があるにしても、味方につくなら、言葉で分かり合える人にしようと……。


 ──こうして私の新学期が始まった。色気も水着もない夏休みが終わって、不穏さと遠雷を孕んだ秋空がくる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 明滅レオン……なんてヤツだ。(;゜Д゜) いつか勝って「ゴミがっ」って言ってやってくださいよシオンちゃん!!
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