93 アゲイン
目を開くと、ちょうどそのタイミングでぴゅーっと、そしてばばばっと巨大な炎色反応が広がった。
「炎色反応て。ロマンゼロかよ」
隣でりんご飴をかじる姫野。
「へへ、間に合ってよかったねぇシオン」
反対側には焼きそばをもっもっもっ、と食べるナズナ。
そして私は、レジャーシートの上で、誰かのあぐらの中にごろんと寝っ転がって、その背中を、誰かの胸に預けている。
鼓動の音が、頭蓋を通じて脳に響く。
それが花火の音なのか、その人の鼓動なのか、それとも私のバカな心臓なのかは分からなかった。
でも、その景色をとりあえず楽しむことにした。そして、道産子ギャルとの約束も忘れなかった。
みんなに隠れて、ぴっと手を伸ばし、その人の手をきゅっと握……れないよ! いきなり男子の手を握るとか無理……!
「あまり無理に動かすな。まだ痛むだろ」
浅いバリトンの声が、耳をくすぐる。そして彼は私がふよふよ動かしていた手を静かに包んで、そのまま握っていてくれた。
……手、手をつないじゃった。
DOOOOOOON!
BAAAAAAAN!
魔刃学園の花火大会には大勢の市民も入場できる。お祭りの会場は熱を帯び、私はそれに浮かされながら、ただただ、その幸せを享受していた。
でもカザネには申し訳ないな。
花火見ながら手をつないだカップルが成就するって、立証できないや。
きっと今のアレンには考えるべきことがある。それを待っていて欲しいと言われたような気がした。
嫌なことは嫌だと言うアレンが、物事を濁すのは、大抵何かを考えていて頭がいっぱいの時だから。
待つよ、待てるよ。だって好きだから。
でも今はちょっとだけこの幸せに包まれているのを許して。もうこんな幸せは、きっと来ないから──。
そう、今だけは、戦争とか悪魔とか。
そういうのは、忘れて──。
***
「おーい。浅倉〜。ダメだこりゃ、完全にダウンだな」
声だけが聞こえて、もう花火の音はしない。このおじいちゃん家のタンスみたいな匂いは……、談話室……?
「あれ、ナズナちゃん! やっぱ起きたわ! まだ状況がよく分かってねーっぽいわ。こいついっつも気絶してんな」
私マジでいっつも気絶してんな。
「シオン〜。花火大会の途中でまた眠っちゃって……。起こすに起こせなかったんだよね」
「……私、毎度中途半端だね」
半笑いを浮かべると、帯刀して厳戒態勢ではあるが、チョコバナナを食べるスズカがこっちを見下ろした。
「こんなことになるだろうと思って、買っておいて良かったわね。──藤堂!」
よっよっ、と二階から降りてきたイオリが両手にスーパーの袋を持っていた。
「それは?」
へへっと笑ったイオリは、袋からそれを全部机にあける。
「手持ち花火だよ! これなら今からでもできるよね」
「おお。漫画のお祭り回で主人公達が花火に間に合わなかった時の回収エモ演出で使われる手持ち花火回……乙だな」
牧野がオタク早口でそう言ったけど、たぶんこの場でそれ伝わってるの私だけだわ。
でも花火は一応見れたし、過不足はないんだけど──。
「ま、アンタはね。でも燐燈がどうしても浅倉と花火したかったんだって。あの人運営で忙しかったらしいから」
「……何それ、キュンキュンした」
ナズナの目が光った気がしたが、気のせいか。
そうだ、そうだね。自分が良ければ満足とか傲慢じゃん!
傲慢よりは強欲の方が、私には似合ってる。
だったらもう、もう全員呼んじゃお!
「あれ、どこいくの〜?」
「スマホ取ってくる。いてて。誘える人みんな誘って、花火大会の二次会するんだ!」
「あ、じゃーあたしもバスケ部の友達とか呼ぶ〜!」
私が階段まで行くと聞こえる声で姫野が言う。それに応じるスズカ。
「あいつボロボロなのに幹事やり始めたぞ……」
「元気って証拠よ。もう心配無用ってことね。バカはほっといてお菓子でも買いに行きましょ」
けっ! バカでけっこう! ヘタレカップルに何言われたっていーもんね。
それでも私は、そのふたりが──姫野とスズカが外に出たあと手をつないだのを見逃さなかった。
ヘ、ヘタレカップルに負けた……。
少しむず痒く、それでもお幸せにという気持ちを持って、私は自室へと向かった。
後でスズカのことめっちゃ問い詰めていじろ。てかまた女子会しよ……。
***
ライザ先輩と養護教諭さんが両手に日本酒の瓶を掲げて、肩を組みながらオクラホマミキサってる。
キャンプファイヤーの近くでは、眼帯先生と副学長がチェアに座ってチェスしてる。
幼女学長はラタ六年生の眼鏡先輩におんぶされながらすやすや眠ってる。あの人はママなのか??
スズカと姫野は……こそっと聞いたところ、まだ付き合ってないらしい。なんでだよじれってぇな。手つないでるのに。
というのも、今はスズカが降神オリガさんのことでいっぱいいっぱいだから、そういうのが終わったら、らしい。ちなみに告ったのは姫野から。やるじゃん。
ナズナは私の太ももを枕にして眠っている。なんだかんだ最近ゆっくり話せてなかったから、ふたりで横倒しになった木を椅子にして、おしゃべりした。
この子が親友で、本当に良かった。
アレンはというと、焼きそば焼いてる。
頭にはちまきを巻いて、不刃流を発動させながら鉄板を熱して、焼きそば焼いてる。衛生的にどうなんだと思うけど、まあ加熱してるからいいか……。
牧野は野外用スクリーン出してみんなと映画観てるし、イオリは湖畔で読書。こっちの自由人たちはいつも通りだ。
乙女カルラと燐燈カザネが線香花火してる。あれ……。なんか、なんかさ、いい雰囲気じゃね? あれ? おいおいおい。
そしてガラスくん先輩はベロベロで泣き上戸のコタツ先輩を背負って帰っていく。
私のストーカーこと妻鹿モリコは相変わらずこっちを見てる。こわい。でも自作のわたあめマシンでみんなにわたあめ配ってる。かわいい。
で、私はというと、隣に座ってる零戦マリサ先輩と藤原イズミという異色のメンバーでこの世のどの魔剣が一番かっこいいかを議論していた。今の所、やっぱりエクスカリバーが濃厚だ。
そして、そのエクスカリバーの持ち主である降神オリガの姿はここにはなかった。正直彼女が敵か味方か、私に分かったことでは無いけれど、もうすぐ秋学期が始まれば、彼女はここに赴任する。
スズカの本気を引き出したり、戦争が始まるという言葉を残したり。
不穏だけど、今は待とう。
その答えはきっと、もうすぐ分かる。
あっ、リオン先輩がゲー吐いたライザ先輩を殴った!
そして始まる大乱闘!!
それを笑って見守る教員陣!!
ほーんとこの学校ってバカばかり。
「ね、浅倉さんも参加しちゃう?」
「浅倉。お前が行くのなら俺も行こう」
すかぴー眠るナズナをそっとマリサ先輩に預けて、私は軽くストレッチをした。
行きますとも。
「私も、そのバカのひとりなんで!」
そして駆け出した。魔刃学園の祭りがただ平和なお祭りなわけ、ないっしょ!
魔刃学園の夜は、まだまだこれからだ。
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