92 VS折紙アレンⅢ③
ミーちゃん由来でもたらされた、漆黒のガントレットことAmplifierは恐らくBlack Miseryに備わる重力操作をフィールド制圧ができるほどに増幅するもの。
Imperial Dawnはその増幅した技のひとつで、自分から半径二十メートル圏内の重力を自由に操作ができる。
自分が皇帝になったような──は言い過ぎだけど、砂粒のひとつまで指向性を持たせて自由な重力方向に落下させることが出来る。
「衝動」はRivalryを使っている。私にとって、切磋琢磨が一番大事らしい。面制圧はガントレットでできるので──と言っても指先ひとつひとつに集中しなければならないから難しい──「衝動」は単に火力バフとして使う。
そしてメイン火力は不刃流とBlack Miseryの併用。
左腕はガントレットの操作で忙しいので、右腕にはBlack Miseryを持つ。Black Miseryを投擲に使っている間の「隙」を不刃流で埋める。
この戦術はライザ先輩に教わった。あの人は剣を同時に千本、平気で操る。私はまだAmplifierと不刃流とBlack Miseryの三つだけ。
そして、一つ一つが強くても、相乗効果がないと意味が無いということもライザ先輩から教わった。
だからこの試合では、アレンという全身が魔剣みたいな人間と渡り合えるくらい、お互いを高める使い方をしたい!
「──はぁはぁ。シオンッ!」
「なに! 限界?」
「いいや──楽しいな!」
ぶっ。
折紙アレンという男は、ほんとに仏頂面で、何をしても笑わないことで有名。
でも、そんな彼が笑ってくれた。
それだけで、さっきまで考えていた、相乗効果だの高め合うだの高尚なことははじけとんだ。
どうでもいいや。強くなるのはいつでも出来る。でも、青春の一ページをかけた、戦いは、今日しか出来ない。
そんなの、もう頭空っぽにしてぶつかった方がいいじゃんっ!!!!!!
「シオンっ!! これで終わりにするッ!! 不刃流八十八式。限界無しの擬似聖剣ッ!!!!!」
彼が両腕を振り上げて、何かを手にするような仕草をした瞬間、天を衝くような光の柱が、上空の雲を引き裂いた。
こ、これ、前に家庭教師の時にちらっと聞いたやつだ……。ストレスが溜まらないと撃てないという……。勉強に関してのストレスがすごすぎて撃てそうって言ってた例の……。
これは流石にヤバい。
私は瞬間──思考した。
どう止める? 見る限り超高密度の光。アルキメデスの光線? そんな単純じゃない。光に質量を持たせてる……どうやって??? まてまてそうなったら相対性理論はどうなる?? 質量……があるなら重力の影響を受ける──。
「Enchanted Arm──Amplifier」
左腕のガントレットを増幅装置に。
「Extra Order──Additional Gravity」
Black Miseryを左腕に突き刺して。
「終わりのない衝動──Fallen」
恋に落ちたこの気持ちを乗せて。
「不刃流五十一式──」
届け。この気持ち。
「──境界線上の恋心」
あなたが好きです。
──SMAAAAAAAAAAAAAASH!!
──GRAAAAAAAAAAAAAASH!!
光と闇は、互いに抗い、想い合うようにぶつかり、数瞬の出来事が、永く悠遠のように思えた。
そして、舞った土煙の中、勝敗は決した。
私は、膝から崩れ落ちて──。
……負けちゃった。
ちゃんと言葉にする前に、その機会も無くしちゃった。
私はもう、身体が動かなくて、まるで重力を操っていた自分にしっぺ返しが来たかのように、泥に沈んだような重さに潰されそうだった。
でもそれが、身体からくるものと、心から来るものの両面だと気づいたのはすぐだった。
日は暮れ始めている。こんなボロボロじゃ、そもそも花火なんて行けないか……。
私って本当にどうしようもないな……。これが正解だって思い込んだら突っ込んじゃうんだから──。
なんだか、地面が濡れてる。
雨かな。汗とか。
それが涙であることなんて、分かっていた。
「いっ、ひぐ、いっ」
涙が、止まらない。
なのに、その足音が聞こえて、少し低い声の息づかいが聞こえただけで、私の馬鹿な心臓はキュッといたんだ。
「シオン、大丈夫か?」
「アレンの数学くらい大丈夫じゃない」
「重症じゃないか」
そんなジョークはまだ言えるんだ、私。
「立てるか?」
「んーん。無理、身体が、磔になっ──」
そうこぼした私を、アレンはそっと抱き抱えた。えっ、ちょこれお姫──。
「ナズナ。シオンを風呂に入れてやってくれないか」
「がってんでい!」
「スズカ。オリガの弱点を教えてやるから、シオンの服を見繕ってくれ」
「ふん。代価がなくったって友達のことくらい助けるわよ。バカね」
「ユウリ」
「おう、なんだ」
「焼きそば買ってこい」
「なんでオレだけ雑なの!?」
みんな、なんで……。
「花火大会行くんだろ」
「……花火好きなの?」
「シオンが準備を頑張ったって聞いてな」
「……いきたい」
「じゃあ、行こう。みんなで」
私が言葉に出来なかった何かを、剣先から受け取ったのかは分からないけど、アレンは珍しく聡明な瞳をしていた。
それを見て、フラれた気がしたけど、不思議な安心感があった。
俺はその程度じゃなびかないぞ、というか、どんとこいって顔に見えた。
私は馬鹿だから、それが少し嬉しくて、今はちょっとだけ、彼の腕の中で眠ることにした。
花火大会、早く行きたいな──。
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